書評Books 主われを愛す、主は強ければ、われ弱くとも、恐れはあらじ
東京基督教大学 教授・学長 山口陽一
『剣を鋤に、槍を鎌に―キリスト者として憲法を考える』
朝岡 勝 著
四六判 900円+税
いのちのことば社
本書は「私学九条の会・東京」憲法学習会での講演記録です。大半がキリスト教と接点のない参加者に「いつものように、いつものことを」、アウトラインだけで自由に語ったという内容は、よく整理され、情熱のこもった、読む者の心に響くことばです。
治安維持法で検挙された祖父をもつ著者は、戦争の「加害者」でもあることの気づきから語り始めます。一章「聖書が目指す世界」で、剣を鋤に打ち直し(イザヤ2・4)、敵意という壁を打ち壊し(エペソ2・14)、平和をつくる(マタイ5・9)ヴィジョンを示し、二章「日本国憲法が希求する世界」では、憲法前文と自民党改憲草案前文を読み比べ、国民主権と全世界の国民の平和的生存権という高い志を確認することで、憲法を変えたいという一点張りの態度の頑なさを浮き彫りにします。三章「自民党改憲案の問題点」は、人のための国から国のための人への逆転を指摘し、改憲草案20条3項の「ただし、社会的儀礼又は、習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない」が国家神道体制に道を開くことを丁寧に説明します。また緊急事態条項が危険な「全権委任法」であるとした上で、「抵抗権」について「神の前に生きるひとりの人間として、その良心によって声を上げないといけない、抵抗しなくてはいけない局面がある」と警鐘を鳴らします。四章「自由といのちが脅かされる時代に」は、日の丸・君が代強制に抗する人々と「特定秘密保護法に反対する牧師の会」を例に「良心」の自由を扱い、五章「いのちと自由と平和のために」では、ボンヘッファーの「平和は安全保障の反対である」という印象的なことばを紹介し、聖書から「二ミリオン行く愛」を説きます。
締めくくりでは、自身の神学を一言でと問われた折のバルトの答、「主われを愛す、主は強ければ、われ弱くとも、恐れはあらじ」が紹介されます。ユーモアと希望をもって終わったであろう朝岡牧師の講演に、心の中で拍手しました。「21世紀ブックレット」に代わる新たな「カイロスブックス」の船出にふさわしい一冊です。