特集 子育てを助ける本 人を通して育まれるもの

等々力教会付属 善隣幼稚園 園長 井上直子

「これ よんで」一冊の絵本を抱えてやってくる子どもは、たいていわたしの膝の上を狙っています。わたしたちは一緒に本を開き、わたしの声によって絵が動き出し語り始めます。
子どもは読み手を選びます。きっと一番読んでほしい、と思っているのはお母さんだと思います。大好きなお母さんの声で絵が動き出すのですから、心が満たされないはずがありません。子どもが喜ぶあそびがわからないときも、疲れきってしまい、ただ子どもと一緒に体を横たえたくなるときも、子どもが選んだ絵本を静かに読んであげるだけで、心地よい安心を子どもに与えてあげることができます。

子どもは直感的に、心地よさを求めて絵本を選びます。あるとき何がどうしたのか、涙が込み上げ嗚咽が止まらない女の子がいました。わたしはその子を抱きかかえて職員室のソファに座り、ゆっくり時を待ちました。ようやく落ち着いた女の子が部屋を出て行き、黙って差し出した本がセンダック作の『かいじゅうたちのいるところ』(冨山房)でした。二人でその絵本を読むうちに、女の子は笑顔になってゆき、すっと立ち上がり、みんなのもとへ帰っていきました。
最近は、お母さんから手渡されたタブレット端末を両手で抱え、画面の中のキャラクターにあそんでもらっている子どもたちの姿を見かけるようになりました。でも、そのキャラクターは子どものお守りはしてくれても、「成長したい」と、一生懸命に現実と向き合っている子どもの背中は押してくれません。

どんなに技術が発達しても、神さまが人に与えてくださった豊かな感性は、人を通して育まれるものです。空想と現実を同時に生きることのできる子どもたちにとって、絵本はひとりの子どもが本当に必要としているものを与え、子どもを広い世界へと力強く押し出してくれるのです。

たちまち重版!

絵本の泉
心を育む絵本の名作40
高原典子 著

保育者を養成する大学で、長年授業で絵本を取り上げてきた著者が、「思いやりの心を育む絵本」「子どもといっしょに遊べる絵本」グリーフケアなど、8つのジャンルから名作絵本40冊を紹介し、子どもとおとな、双方の心を育む絵本の力を語る。

四六判 192頁 定価1,300円+税