キリスト教信仰の核心を明快に語る
日本キリスト改革派教会 引退教師 望月 明
『とこしえに祭司であるキリスト―ヘブル人への手紙講解』村瀬俊夫 著
B6判 2,000 円+税 いのちのことば社
この書は、著者が牧師引退後に、長年牧会された蓮沼キリスト教会で月一回してこられたヘブル書の連続講解説教をまとめたものです。福音派教会だけでなく、日本の教会ではヘブル書の講解は数少ないという状況を考えても、本書の公刊はきわめて有意義なものといえるでしょう。
この書の理解のために、まず巻末の「ヘブル書の神学―大祭司キリスト論」から読むことをお勧めします。概説とも言えますが、ヘブル書の神学が明確にとらえられ解説されています。イエス・キリストの大祭司職が取り扱われ、レビ系の祭司制の継承ではなく、「メルキゼデクの例に倣う大祭司」であることを受けとめ、祭司職の変更を読み解き、律法と契約の変更があることを提示しています。これらは贖罪論の核心部分で、キリスト教信仰の独自性を明快に解き明かしています。一般に聖書的信仰という言葉で旧約と新約との連続性と非連続性とが不明確になりがちですが、この点を明確にしてくれる好論文です。
次に、著書の新約学者としての側面と伝道者としての情熱とが見事に融合していると言っていいでしょう。もともとヘブル書は旧約の祭司システムを背景にして記され、分かりやすい書ではありません。その用語や概念、文脈などを、初心者にも分かるように手際よく解説しています。同時に伝道者・牧師としての気迫が感じられます。「しっかり聴いてほしい」、今は天におられる大祭司キリストを仰ぎ、「こう信じて、生きてほしい」という、著者の訴えが滲み出ている伝道と霊想の書でもあります。
第三に、本書は『新改訳2017』を用いた聖書講解です。著者が実際の説教でテキストとして用いたのは『新改訳聖書第三版』であったでしょう。しかし、本書の出版にあたって『新改訳2017』に変更したようです。著者は説教にあたっては新改訳だけでなく、口語訳、新共同訳、岩波訳なども広く自由に参照しており、講解に豊かさをもたらしています。さらに『新改訳2017』にテキスト変更したことによる、新しい聖書翻訳の良い影響が講解の随所に現れています。