書評 言葉と心のキャッチボール
日本基督教団・更生教会 牧師 山口紀子
『真実の自分と向き合う 100の寸言 50のおしゃべりレシピ』
藤掛 明 著
B6判 1,200円+税
いのちのことば社
本書は、気づきへのきっかけを与えてくれる本です。教えるのではなく、気づかせてくれる。それは臨床心理士である著者のスタンスそのものなのでしょう。
第一部「100の寸言」は、著者の人気ブログ「おふぃす・ふじかけ」の記事から生まれました。開設七年目にして改めて読み直し、印象的だった四百余からさらに百に絞り込んだ選りすぐりです。
たとえば「4 中間の世界」(一二頁)。「私たちは、もっと中間を大切にしなくてはならない。社会が100点か0点かに振り分け、中間を排除しつつあるからこそ、この中間を意識し、保持していく必要がある。そのためには中間の成功を積極的に認めるし、失敗してもそれは0点ではないことを絶えず確認する必要がある」
これは心理面接官二十一年の経験を持ち、ガン、難病とは十年のつきあいになる著者ならではの、深い洞察と包容力に満ちた寸言集なのです。抑制の利いた言葉が心地良く、その言葉と私の心がキャッチボールを始めます。その「ほんの少し先に、真実な発見や深い潤いが待っている」(「はじめに」より)、そう著者は言います。
そして、第二部の「50のおしゃべりレシピ」はコミュニケーションの糸口となる五十の問いです。自身を掘り下げるのはもちろん、自己紹介にも。また、よく知る仲間である教会のスモールグループや学校、職場などにも話題を提供してくれます。これまで知らなかったその人の意外な一面を知ることになるでしょう。
たとえば「道に迷ったことってありますか?」(八八頁)。それをどう解決したかにその人らしさが表れます。好きな食べ物や飲み物を聞くことはよくありますが、藤掛流はさらに「どういう時に食べたく(飲みたく)なりますか?それについての思い出がありますか?」と深めていきます。巻末の「SOSのサイン」は人や自分が無自覚に発しているサインに気づかせてくれます。これらはすべて著者の「身になっている言葉」(「おわりに」より)。だから、温かいのです。私は友人にもプレゼントしようと思います。