特集2 新刊紹介 四年の時を経て本になった神の愛の記録
この秋、『隣に座って―スキルス胃がんと闘った娘との11か月』(中村佐知著)が出版される。いわゆる「闘病記」とは異なる本書の魅力を担当編集者に聞く。
担当編集者 結城絵美子
中村佐知さんと私は十数年前、翻訳者と編集者として出会いました。何度かご一緒にお仕事をさせていただきましたが、中村さんが翻訳される本は、私にとって個人的な課題や必要に答えてくれる本ばかりだったので、そういうテーマでメールのやり取りをするうちに、どんどん親しくなっていきました。
とはいえ、中村さんはシカゴ在住ですので、やり取りの大半はメールやフェイスブックというソーシャルメディアを通してのものでした。実際にお会いしたことはまだ十回に満たないと思いますが、一時帰国の際には、うちの一人息子と同じ年齢の中村さんの末の息子さんが我が家に泊まりに来てくれたこともありました。
その際に、次女の美穂さんにもお会いし、また別の機会には中村さんと私と二人の息子たちで遊んでいる間に、中村家の三姉妹がお台場の温泉を楽しんでいて、仲の良さを垣間見たりもしていました。
だから、少し前に首や背中に痛みを訴えていた美穂さんに末期のがんが見つかり、すでに骨にまで転移していると聞いたときにはまさに青天の霹靂で、聞いたことに心が追いついていかないほどの衝撃でした。
中村さんは、驚くほどの率直さをもって、事の次第を始めからフェイスブックに記していかれました。それは闘病の記録であり、祈りの要請でありましたが、それ以上の何かがありました。今回、中村さんの原稿を編集している中で、それが何だったのか、はっきりと文章に表れている部分があることに気づきました。
「ミホが病気になったのはなぜなのか。彼女が苦しまなくてはならない意味は何なのか。……それは答えを要求すべき問いではないのかもしれない。しかし、問うことをやめるのではなく、それを問いつつ、その緊張感や葛藤の中を日々生きることで、何度も神と出会い、神に触れられる。意味があるとしたら、そこなのかもしれない」
中村さんが投稿する記事は、闘病記であると同時に、その中で中村さんや美穂さんに語りかけ、働きかけ、包み込み、共に泣き、慰め、励ましてくださる神様の愛の記録でした。
中村さんも美穂さんも、病を癒やすことのできる神様を信じ、そしてたとえ癒やされないとしても、そこで終わるのではなく永遠の御国への希望があることをはじめから信じていました。
でも、神様の恵みは、それだけではなかったのです。未来への約束だけではなく、闘病のさなかに傍らにいてくださる神様の姿を、この地上にすでに存在している神の御国を、中村さんの文章は浮き彫りにしていました。
美穂さんが召され、この「闘病記」に一つのピリオドが打たれたとき、私は、これはいつか、本にして多くの方に分かち合うべき宝のような記録だと思いました。もちろんすぐには無理でしたが、中村さんにならそれができるという確信もありました。そして四年の時を経て、今、それが実現したのです。
フェイスブックの記事を追いながら、祈りつつ、リアルタイムで美穂さんの闘病を見守ってきた私は、中村さんと同じように、あるときは癒やしへの期待を膨らませ、あるときは切実な願いをもって神様に嘆願し、やがて、死が迫っていることを意識せざるを得なくなりました。
今回、この原稿の編集と校正をするために、原稿を最初から最後まで何度か読み返す中で、「ああ、もう十二月だ」「ああ、もう一月だ」と、美穂さんが召された三月が近づくのを切なく思う気持ちになったりしました。何度読んでも、同じところで涙があふれてしまう箇所もあります。
けれども毎回、読み終わるときには「主の勝利」ということばが心に浮かび、希望を感じるのです。主は、すばらしい。この方ともっと親密な生活を、私も送りたい。そう思って、原稿の最後のページを置くのです。
本書は美穂さんの召天をもって終わりますが、かけがえのない娘を天に送った中村さんのグリーフワークはそこから始まります。「美穂を失う前の私には二度と戻れない」という中村さんは、しかし前にも増して神様のみそば近くで生きておられます。そして今はそのグリーフワークについてまとめておられます。そちらも皆さんに読んでいただける機会が巡ってくるかもしれません。
『隣に座って スキルス胃がんと闘った娘との11か月』
中村佐知著
B6判・230頁+カラー口絵2頁
定価1,700円+税