特集 ほんとうの贈りもの
プレゼントを贈り合うクリスマス。今年は何を贈ろうか、と頭を悩ませる人もいるのではないでしょうか。
この秋に出版された、絵本『おくりもの』(泉谷千賀子著)に込められたメッセージから、ほんとうの「贈りもの」について、著者の泉谷さんに聞いてみました。
著者インタビュー・あなたは大切な贈りもの
泉谷千賀子
(いずたに・ちかこ)
羊毛フェルト作家。1961年福島県生まれ。大阪府在住。羊の毛にたくさんの愛を込めて笑顔が広がってゆくことを願っている。著書に『みつけたよ』(いのちのことば社)がある。
日本人は諸外国に比べ、自己肯定感が低いといわれる。何かをできなければと追い詰められている人も多いだろう。
泉谷さんが、被災した故郷・福島への思いを込め、制作した前作『みつけたよ』。神に捜され、覚えられ、必要とされているというメッセージをひつじ、すずめ、ろばのストーリーに込めた。
新作『おくりもの』は、こひつじの冒険物語。自分の無力さを嘆き、家を飛び出した主人公は、さまざまな動物と出会い、自分も誰かの役に立ちたいと願う。家に帰り着いたこひつじに、ずっと息子を捜し続けていた父は語る。
「なにかができるから たいせつなわけじゃ ないんだ……ぼうやはさいこうの おくりものだよ」と。
泉谷さんがこのストーリーを生み出すまでには、ある出来事があった。昨年の春、息子夫婦に双子の女の子が生まれた。泉谷さんにとっては、一人息子の子どもであり、初孫となる。
「八一二グラム、五〇二グラムという小さな体で生まれてきた二人。生後四十日で、大きく生まれたはずの姉のほうが天に帰っていきました。保育器の中の命に私は何もできなかった。愛してるよ、ともっと伝えたかったのに……」
涙をぬぐいながら、泉谷さんは「神様がこの子に託したご用は何だったのか」と考え続けた。
「彼女の使命が何だったのかを考え続けること、そして残された私たちに神が託しておられることを考え、それに応えようと生きてゆくことが私の使命だと考えるようになりました」
そして、泉谷さんは、この本のストーリーを紡ぎ出した。
「命は授かるものではなく、神様から預かるものだと教えられました。この本を通して、預かりものである命の尊さを伝えたい。私は、NICUやGCUで精いっぱい生きている命と出会いました。生きる中で悩み苦しみ、自ら死を選ぼうとする人もいる。どうかその命の火を消さないでほしい。失望に終わらない希望があることを知ってほしいのです」
こひつじが暗い森を歩くシーンがある。
「自分の力ではどうしようもない状況に追い込まれたとき、言葉は出てこない。ただただ、神様、お父さんと叫ぶことしかできない。これは究極の祈りだと思います。私は、この出来事の中で、中途半端な明るさでは見えない光、真っ暗闇の中で見える光があることを知りました」
双子の妹は、必要な医療ケアを受けながら懸命に生きている。
「今を、精いっぱい生きる彼女の周りには、いつも笑顔が満ちあふれています。ありのままの姿で愛されている安心感が笑顔を生むのでしょうか。それとも、我欲を持たない澄んだ瞳が周りを明るくするのでしょうか。この二人の命は、大切な大切な神様からの贈りものです」
何かができること、「贈る」ことだけに価値をおいていないか。私たちはすでに「贈られている」のではないか。そうこの本は優しく問いかけている。