書評 マイナーからメジャーへ 『テトスへの手紙・ピレモンへの手紙に聴く 健全な教えとキリストの心』
東京フリー・メソジスト教団・桜ヶ丘キリスト教会協力牧師 野田 秀
『テトスへの手紙・ピレモンへの手紙に聴く 健全な教えとキリストの心』
船橋誠 著
B6判 1,500円+税
いのちのことば社
この本は、「テトスへの手紙」と「ピレモンへの手紙」という、パウロの手紙の中では比較的マイナーな二つのものの講解説教です。著者の船橋誠牧師は、この二つをメジャーなものに引き上げ、豊かな輝きを与えています。
それはまず、次のことばに表されています。
「この二つの短い書をしっかりと読んで学ぶだけでも、新約聖書の中でパウロが語っている教えのエッセンスをとらえることができるでしょう。」(本書三頁)
これは一見大胆な見方ですが、これを読む人は次第に「なるほど、なるほど」とうなずかされるに違いありません。
そしてこの見方は、この二つの手紙は一体であるという考え方につながります。それは、神の恵みによって救われた人は、「テトスへの手紙」にすすめられているように、健全な教会の形成に努める人となり、「ピレモンへの手紙」の主題のように、自分が赦されたように隣人を赦す人になることが、他のいくつものパウロの手紙のエッセンスでもあるということです。その意味でこの説教集は、別々の説教が二つ載っているのではなく、全体で一つの説教集なのです。
著者はわかりやすいことばを使い、だれにでも理解しやすいように語ります。読む者をパウロの世界に連れて行き、その時代を私たちに見せてくれます。同時にその時代も今の時代も人間の姿に変わりはなく、したがってクリスチャンの生き方、教会のあり方は今も変わるものではないことを丁寧に説き明かしています。
著者はかつて、教会で献身者の審査を受けたときに秀でたものがないと批評されたそうですが、その著者によって、このように優れた説教集が誕生したことを、心から喜んでおります。