書評 読むのではなく体験する聖書のことば 『SMILEFULL DAYS Ⅲ 今日を、せいいっぱい生きるための12の物語』

日本福音ルーテル教会牧師・ロッケン牧師 関野和寛

『SMILEFULL DAYS Ⅲ
   今日を、せいいっぱい生きるための12の物語』
沖崎学 著
B6変型 1,300円+税
フォレストブックス

本書『SMILFULL DAYS Ⅲ』の十二の聖書物語は自然に、そして優しく読者の心に触れていく。聖書のキリストの物語を現代人にわかるように、そして、そこに登場する人物たちの不安や喜びを鮮やかに書き上げている。かつ聖書の物語を変えたり薄めたりすることなく、その中心にあるメッセージを届けてくれるのが本書の特徴であろう。

そして気がつくと、その聖書の場面に自らがいるかのような感覚にさえなってくる。遠い二千年前のどこかの誰か、よくわからない宗教の物語ではなく、今を生きる私の物語として自分に迫ってくるのだ。宗教改革者マルティン・ルターは「聖書の世界を体験しなければ聖書は理解することができない」と述べたが、同著は私たちの日常の生活の場を聖書の場としてくれ、いよいよ自分にも今日キリストが居てくれるのだという喜びを与えてくれる。

 

私は、著者沖崎学先生が宗教主事を務める学校を訪れ、その働きの現場を見せていただいた。キリスト教主義の学校にはチャペルがあり、キリスト教概論の授業があり、聖書にいつでも触れることができる環境にある。

けれども、いかにハードが整っていても、伝えるソフトがなければたった一人の心に届けることもできない。礼拝堂に入り、そして聖書を開き、それを自分の物語として感じられることは至難の業である。そこには、キリストの心をもって人を招き、キリストの心をもって出かけ、そしてキリストの心をもって語りかけるパッションが必要である。

沖崎先生は日々生徒と接している中で、そのことをひしひしと感じておられるのだと思う。生徒たちが抱える悩みと不安を感じ、そこに聖書とキリストを届けたいという想いの結晶が本書である。

通読ではなく、十二の短い聖書の読み切りのストーリーで書かれていること、また一見、宗教関連書に見えない爽やかさがあることも大きな魅力である。ぜひ手に取ってほしい一冊である。