日常の「神学」 今さら聞けないあのこと、このこと 第10回 教会と役員
岡村 直樹
横須賀市出身。高校卒業後、米国に留学。トリニティー神学校を卒業し、クレアモント神学大学院で博士号(Ph.D.)を取得。2006年に帰国。現在、東京基督教大学大学院教授、日本福音主義神学会東部部会理事、hi-b-a責任役員、日本同盟基督教団牧師。
今から約二千年前、地上に来られたキリストは十二人の弟子たちを選び、彼らと共に活動されました。当然キリストは、ひとりで何でもできるお方でしたが、彼らに役割を与え、彼らと共に歩むことを選ばれたのです。キリストが天に昇られた後、アジアやヨーロッパ各地に広がっていった教会も、一握りのリーダーたちによってすべてが切り盛りされたのではなく、長老や執事と呼ばれる、選ばれた同労者たちと共に運営されていきました。そこに、教会の役員会の始まりがあります。「役員会」の呼び名や形態は、教団・教派によって異なりますが、その営みはキリスト教の歴史の中で、ずっと守り続けられてきたことです。二十一世紀の教会の役員会もまた、その歴史をさかのぼれば、二千年前のキリストにたどり着くのです。
役員には、礼拝や教育、会計や会堂管理といった、それぞれに分担された働きがありますが、その中心にあるのは、教会における「みことばの奉仕のサポート」です。使徒の働き6章には、使徒たちによって七人の、いわば役員が選出される場面がありますが、その理由は、使徒たちによる「祈りとみことばの奉仕」をより充実させるためでした。7節にはその七人の働きによって、神のことばが「ますます広まっていき」、教会も大きくなっていった様子が描かれています。その後、教会の発展に伴い長老や執事といった名称や役割分担が登場しますが、その働きの中心は同様です。ほとんどの教会において「みことばの奉仕」を中心的に担っているのは牧師ですから、役員の最も重要な務めは、牧師のサポートであると言えるでしょう。
では、役員になるべき人とはどのような人でしょうか。使徒の働き6章3節には、その条件として「御霊と知恵に満ちた、評判の良い人たち」と書かれています。「御霊に満ちた人」とは、御霊に頼る人のことです。その人は、自分の能力に信頼するのではなく、へりくだって神様の力を常に求める人です。「知恵に満ちた人」とは、神の知恵に従おうとする人のことです。その人は、自分の知恵に信頼するのではなく、へりくだって常にみことばから学ぼうとする人です。「評判の良い人」とは、クリスチャンとしての証しを立てている人のことです。その人は、教会の中だけではなく、家庭や仕事場、そして近所でも裏表がなく、信頼されている人です。
もちろん役員になる人は、完璧な人である必要はありません。いや、完璧な人など、この世には存在しません。使徒パウロでさえ、自分は罪人の頭であると語っています。大切なことは、神と人の前でへりくだっていることと、自分や他人ではなく、神様とその言葉に信頼していることです。
十二人の弟子を選ばれたキリストがまずしたことは、彼らの訓練でした。現代の教会の役員も同様です。はじめて役員として選ばれた瞬間から、その職務を全うできる人はいません。みことばの学びと共に、教会生活における他者との関係性の中で愛と寛容と忍耐を学び、訓練されることによって、よりふさわしい役員として神様が成長させてくださいます。
役員の働きには大きな責任が伴います。時間や労力も必要とされますので、中には自分にはできないと考える人もいるでしょう。また、役員の持つべき資質を聖書から学び、自分はふさわしくないと感じる人もいるかもしれません。しかし神様は不可能を可能に変えてくださるお方です。ですから、推薦や選挙で声がかけられたときには、すぐに辞退することを考えるのではなく、まず祈り、そして牧師に相談しましょう。役員会の中には、さまざまな働きがありますので、はじめは比較的荷の軽い働きを担当することも可能かもしれません。
多くの場合、役員の選出は推薦や選挙によってなされます。役員の選出は、人気度や個人的な好き嫌いによって左右されるべきではなく、信仰者としてのふさわしさが吟味されるべきです。そのためには、まず教会全体が役員の働きの内容や、持つべき資質をよく理解していることが重要です。選挙によって役員を選ぶ教会では、何十年も教会に通っている人にも、また最近新しく教会員になった人にも、平等にひとり一票が与えられますので、役員の働きに関する学びは定期的に教会全体で持たれるべきでしょう。
また役員の選びと任命には、背後に神様が働いておられることを確信すべきです。ですから、推薦であっても、選挙であっても、役員が選ばれた時には、教会全体がそれを喜び、一致して承認することが大切です。さらに教会員は、牧師のために祈るように、役員のためにも日々祈るべきです。