313 時代を見る眼 コロナ禍の現場から〈1〉 小さないのちのドアから見えたもの
小さないのちのドア代表 永原 郁子
「小さないのちのドア」は、育てることができないと追い詰められた女性のための相談窓口で、電話、メール、ライン、来所での相談を24時間365日お受けしています。
2018年9月にスタートし、毎月20~30人の新規の相談を受けています。ところが新型コロナウイルスの感染が広まり始めた2020年の3月頃から、新規の相談数が急激に増えてきました。
3月46人、4月89人、5月120人、6月はなんと150人にも及びました。コロナの影響を受けていると思われるワードを、頻繁に聞くようになりました。年齢層にも変化が見られ、コロナが取りざたされる以前は20~30代の相談の方が多かったのですが、10代の若年層からの相談が8割になりました。そのほとんどが、妊娠したかもしれないという相談です。
また今年になって陣痛が起こってきてからの相談が5人。なんとか皆さん安全に出産していただくことができ、胸をなでおろしています。
このようないのちに関わる深刻な相談をお受けするたびに、マザーテレサの言葉が頭をよぎります。
「もし貧しい人々が飢え死にするとしたら、それは、神がその人たちを愛していないからではなく、あなたが、そしてわたしが、与えなかったからです。……キリストが、飢えた人、寂しい人、家のない子、住まいを捜し求める人などのいたましい姿に身をやつして、もう一度来られたのに、わたしたちがキリストだと気が付かなかったからなのです。」
私は1993年にマナ助産院を開業し、お産や育児、性教育などを通して地域母子保健を担ってきました。「ドア」に相談に来られる女性のすぐ側で27年間働いてきたのです。にもかかわらず、その存在が見えていませんでした。
「小さないのちのドア」を開いてはじめて、後悔や腹立たしさ、戸惑いや恥ずかしさなどで途方に暮れる女性の傍らで、肩を落として女性の苦しみに伴っておられるイエス様の姿を見ることができました。
自業自得とか、性教育が先だろうなどという非難の声も耳に入ってきますが、お腹にいのちを宿した女性を温かくサポートする社会でありたいのです。女性の笑顔は、次代の笑顔につながりますから。
最も小さな存在である胎児、そして、そのいのちを宿した女性を大切にすることは、戦後、おびただしい数の胎児を中絶してきた国、日本に神様が望まれていることではないでしょうか。