ヘブル語のススメ ~聖書の原語の世界~ 3回目 アルファベットの話
城倉啓
1969年、東京生まれ。西南学院大学神学部専攻科修了後、日本バプテスト連盟松本蟻ケ崎教会の牧師就任。
2002年、米国マーサ大学マカフィー神学院修士課程修了後、志村バプテスト教会牧師を経て、現在、泉バプテスト教会牧師、東京バプテスト神学校講師。
ヘブル語のアルファベットは二十三文字あります。そしてすべてが子音であるという特徴も持っています。英語と異なり、ヘブル語には、a、i、u、e、oに当たるアルファベットは存在しません。
子音とは、唇や歯や舌や喉を使って出す音のことです。では、どのような音がアルファベット二十三文字に託されているのでしょうか。文字の名前が、そのヒントとなります。すなわち、b(ベート)は英語のbの音です。g(ギメル)はg、以下同様に英語のアルファベットで写されている文字については、英語のとおり発音すればよいのです。
英語のとおりではない発音の文字もあります。w(ワゥ)はドイツ語のw(英語で言えばvの音)で発音します。r(レーシュ)はスペイン語の巻き舌のようなrの音です。
アルファベットの周辺に独特の記号が付いているものもあります。j(ヘート)のh.は、ドイツ語のchの音。hとkの間の音です。f(テート)のt.は、ねっとりと上あごに舌をくっつけ気味に出すtの音。x(ツァデー)のs.は、tsの音、ツァ・ツィ・ツ・ツェ・ツォです。c(スィーン)のŚは「二番目のs」というだけの意味で、s(サメフ)のsと全く同じ発音です。それに対してv(シーン)のŠは異なる発音です。shの音。シャ・シ・シュ・シェ・ショです。
cとvは元々一つの文字でした。元来の発音はŠ、shの音でした。ところが後にshを発音できない人々が出てきました。エフライム部族は「シボレテ」と言えず「スィボレテ」としか言えなかったとあります(士師一二・六)。s音しか発音できない人々が多くなって、仕方なく右肩と左肩に点を打って区別をしたという経緯があります。
aアレフの’と、[アインの‘は、セム語族だけの特別な記号です。これは「喉が空いているという子音」です。アレフの場合は普通に喉が空いている状態、アインの場合はうがいをする時の引っ込んだ感じで喉が空いている状態です。
要するにaは、ア・イ・ウ・エ・オと読めばよいのです。
[については、「苦し気に」ア・イ・ウ・エ・オと読むわけですが、無理ならあきらめて構いません。聖句の意味を探る「暗号解読」において発音の正確さは重要ではないからです。
単語の最後に来ると形が変わる「語尾形」を持つ文字が五つあります。˚ はカフ、μはメム、ˆ はヌン、π はペー、≈ はツァデーの語尾形です。それぞれ姿かたちが似ているので同じ文字であることを推測できますが、見かけが似通う他の文字と見分ける必要があります。
合計するとアルファベットは、二十八種類の見かけを持ちます。ヘブル語アルファベットはほとんどの人が初めて見る文字ですから、二十八種類の「暗号」です。まずは文字に見えるまで毎日、文字の名前を順番どおりに覚えることです。おすすめは替え歌。『新聖歌』六十番がちょうどよい長さです。毎日一回歌うと覚えられます。
「子音だけでは不便ではないか」と思われるでしょう。そのとおりです。聖書の読み方(礼拝での朗読)に不安を感じたユダヤ人写本家たちは、まず三つの子音に母音の役割も担わせました。hにはaの音、yにはiとeの音、wにはuとoの音が割り当てられました。
母音にもなる子音アルファベットを「準母音」と呼びます。有名な死海写本の「イザヤ書大巻物」は紀元前二世紀、準母音が普及していたことを証明しました。準母音でも読み方が安定しなくなったので、紀元後五世紀に詳細な母音記号十六種類が発明されたのです。紀元後一世紀ナザレの会堂でイエスが読んだイザヤ書は準母音がたくさん使われていたのでしょうか。