特集 本で楽しむキリスト教絵画と映画 本で映画と英語とキリスト教を10倍楽しんじゃおう!
字幕翻訳家、元ワーナー・ブラザース映画製作室長 小川 政弘
私は、中学生時代から映画、とりわけ外国文化にスクリーンを通してじかに触れられる洋画が大好きで、将来は映画評論家か映画会社で働きたいと願い続け、とうとう念願かなって、東北の片田舎から上京してワーナー・ブラザース映画会社に入社しました。そして定年を一年半延長し、四十六年半勤め上げ、二〇〇八年に退社しました。後半の三十一年間は、本当にやりたかった映画字幕・吹き替え版製作の仕事に携わりました。その間、きちんと系統的に聖書・キリスト教について学び、この世のただなかでキリストの証人として生きよとの神様の召しを受けて、四年間、神学校の夜間部で学びました。
一方では、仕事上でお付き合いのあった字幕翻訳学校で受講生に教えることになり、字幕翻訳のノウハウとともに、外国映画の翻訳には欠かすことのできない聖書・キリスト教の世界についても、年に二、三回、特別講座で教えていました。
そんな私が、現役時代からひそかに出版したかった本が二冊ありました。一冊は、ワーナーでの仕事を通して、一証し人として生きた記録を残すこと。これは退職後十年目の二〇一八年、『字幕に愛を込めて 私の映画人生半世紀』(イーグレープ)の出版で実現しました。もう一冊が、このたびの出版でした。これは、もともと私の字幕翻訳学校での聖書・キリスト教講座のテキストでした。一九九九年に講座が始まって以来、私はひそかに、「これをいつかは出版したい」と願い続けていたのですが、二十年後の昨年、思いがけない方法でかなうことになりました。
いのちのことば社の編集とフリーランスの翻訳をしておられるY姉が、ご自分でも字幕翻訳の技術を身に着けたいと、この学校で受講され、このテキストの内容に興味を持たれて出版部に話を持ち出してくださり、このたび出版の運びになったのです。神様は二つの願いをかなえてくださいました!
この本は、タイトルも示すように、はっきり言って“欲張って”います。何せ一冊で、①ミニ神学講座よろしく、読者の皆様にキリスト教・聖書の神学的、歴史的、実践的知識のさわりを学んでいただき、②字幕翻訳というなかなか一般には知られることのない舞台裏の苦労と面白さを、実際の英語とそこから訳された日本語字幕のセリフを例にお伝えし、③その英語のセリフの根底に流れている聖書・キリスト教の表現をピックアップして解説し、現代英語に隠れている聖書のイディオム(慣用句)にも大いに精通していただこうというのですから!
では本書の中の、字幕翻訳のさわりの記事を一か所ご紹介しますね。間もなくクリスマスですが、「聖書を知っていれば字幕がここまで変わる」の章で、「スリー・キングス」という映画の中の賛美歌の一節が出てきます。
♬We three kings be stealing gold
ご存じ、「我らは来たりぬ」をモジったものですが、最初の字幕訳はこれ。
「三人の王が金塊を盗む」
これがなんと六回もの修正が加わって、最終的にはこうなりました。
「三人の賢者が黄金を盗む」
はたして舞台裏では何があったのか? ほかにも興味津々記事が満載!
まずはこの一冊をお手元に確保して読み進めながら、なかなか外に出られない日々を、お家で家族とご一緒に、見たい映画からお楽しみいただけたらと思います。この本を読み終えたら、字幕洋画への興味度が、格段にアップしていることに気づかれると思います。
映画の鑑賞方法も、このコロナ禍の情況も拍車をかけて、かなり以前とは様変わりしてきています。映画は、本来はやはり劇場の大スクリーンで楽しむもので、実は観客は全く声を発しない分、集客施設の中では最も安全なのですが、やはり往復の電車など、半日近く外気に触れるのには抵抗があるでしょう。
いきおい、家でDVDでというスタイルになりますが、それも今は過渡期で、どんどんネット配信に切り替わっています。劇場にはかかりにくいキリスト教映画も、これからはネット配信で見られるのです。
私は今、Facebookの「聖書で読み解く映画カフェ」を主宰し、新着映画の予告編にいち早く字幕を入れてYouTubeで紹介していますが、加えて昨年、有志四人で、「クリスチャン映画を成功させる会」を結成し、今年劇場公開された三本のクリスチャン映画の教会向け宣伝を手伝っています。
どうぞあなたも、この本を片手に、ご家庭で映画と英語と聖書・キリスト教を10倍楽しんでください!
*『聖書を知ると英語も映画も10倍楽しい』