書評Books 牧会者と教会への健全なことば
日本イエス・キリスト教団・千里聖三一教会 牧師 金井由嗣
『テモテへの手紙第一に聴く 健全な教会の形成を求めて』
赤坂 泉 著
B6判 1,400円+税
いのちのことば社
著者はバプテスト宣教団の牧師・聖書神学舎の専任教師を長年務め、現在は聖書宣教会・聖書神学舎の主任牧師・校長となっておられます。説教者・牧会者として召された方々の教育指導にあたってこられた著者が、若き牧会者テモテへの助言と励ましの手紙を読み解いて、現代の私たちに伝えてくださる。まことに最適の人を得た、と言えるでしょう。
テモテ個人に向けられたこの手紙を著者は、テモテが指導者として仕えていた教会の人々に向けても語られ、さらには時代を超えて神の教会で読み継がれるべき「教会への手紙」として受け取ることを勧めています。この手紙が「福音の宣教と健全な教会の形成に注力するパウロの伝道・牧会の中で紡ぎ出されたことば」であるからです。
聖書原文の微妙なニュアンスや文の構造を大切に、精確に読み取りつつ、一般の会衆にわかる言葉で丁寧に説明し、テキストから誠実にメッセージを引き出して、現代の私たちに適用していきます。優れた講解説教です。
本書からは、理解の難しい聖書のテキストについて、学び続けることの大切さも教えられます。その一例を紹介します。第九説教「女たちよ、飾りなさい」(二・九〜一五)です。直前の八節の第八説教「男たちよ、祈りなさい」とともに、教会での男女の役割を固定し、女性の奉仕を限定する根拠としてしばしば引用されてきた、現代においては特に取り扱いの難しい箇所です。著者はこの箇所がはらむ問題点を的確に把握しつつ、当時のギリシア文化圏での女性の振る舞いやエペソ教会の中で生じていた問題を考慮し、聖書学や聖書考古学の最新の知見を生かして見事に読み解いています。
テモテは、宣教と教会形成の歩みの中で繰り返しこの手紙を読んで、慰めと励ましを受けたことでしょう。私にとっての本書も、聖書の横に置いて何度も読み返したい一冊です。