信じても苦しい人へ 神から始まる新しい「自分」第19回 超越への道①〜心の隙間を見つめる勇気〜
中村穣 (なかむら・じょう)
2009年、米国のウエスレー神学大学院卒業。帰国後、上野の森キリスト教会で宣教主事として奉仕。2014年、埼玉県飯能市に移住。飯能の山キリスト教会を立ち上げる。2016年に教会カフェを始める。現在、聖望学園で聖書を教えつつ、上野公園でホームレス伝道を続けている。
皆さんはスケジュール帳に空欄があると埋めたくなるでしょうか? 予定がいっぱいだと、なんだか自分に価値があるように思えます。隙間があるより、詰まっていたほうが安心したりするかもしれません。しかし、そこに神様を見えなくさせている要素があります。
それは成果主義、満足、達成感です。私たちは神様以外のもので自分の心を埋めようとします。だから、神様の声が聞こえないという状態に陥りやすいのです。
現代に生きる私たちは、じっとしていることが苦手です。しかし神様の声を聞くときに、じっと静まることは大切です。「努力すれば何とかなる」というキャッチフレーズに希望を感じたりもしますが、本当は努力しても報われないことがあることも教えなくてはいけないのかもしれません。
失敗は無駄ではないことや、時には静まることを教えることも大切です。動かないと何も始まらない、という考え方では“心の隙間”は見えません。今日はこの心の隙間を埋めることのできるのは超越した(理解を超える、見えない)神様であるということを見いだしたいと思います。
よく養老孟司さんの本を読むのですが、『いちばん大事なこと』(集英社新書、二〇〇三年)の中に「『起こったこと』だけをつないだ歴史は、何かが起こらないようにするために日常的に払われている努力を無視している」という一節が出てきます。本当にそうだなと思いました。
私たちも神様がしてくれたことだけを見ていたら、超越した神様が見えなくなります。何もないかのように見える人生のページにこそ、実は大きな神様の守りと恵みがあります。私たちの知らないところで、神様が地道に導いてくださり、何の生産性もない私の痛みや葛藤に寄り添い、涙してくださっていることを知るときに、私たちは超越した神様と出会うのです。
神様が願いを叶えてくれた、という視点だけではたどり着けない信仰の境地があります。目に見える感謝だけではたどり着けないのです。「神様がしてくれたこと」は養老孟司さんの言う、「起こったこと」です。確かにそれも恵みですが、その背後に「起こらない」という神様の守りと計画と恵みがあります。
歴史を見るとわかるように、起こったことよりも断然、何も起こらない時間のほうが多いです。「神様はすべての出来事を超越して、いつも私たちのそばにいる」ということは、“何も起こらない”ということを見つめないとわからないのです。
また、こうあるべきという方法論は神様を見せなくさせてしまいます。なぜなら、方法論で心の隙間を埋めてしまうからです。神学生から、こんな悩みを相談されたことがあります。とてもまじめな彼は、説教学で説教の要点を三つのポイントにまとめて語るやり方を学んでから、デボーションができなくなったと言うのです。聖書を開くと三ポイントを探してしまい神様が見えない、と。私は彼に「もし神様が見えなくなるなら、そんなものは捨てなさい」と言いました。こうあるべき、という方法を持つことで、神様が埋めてくださる心の隙間を自分で埋めてしまうことになるのです。私たちは主の前に、空っぽのままの心を差し出す必要があります。
シモーヌ・ヴェイユが『重力と恩寵』の中で、心の隙間のことを「真空」という言葉で語っています。明日を知ることや、神様の計画を知ることで安心する信仰ではなく、明日さえ、神様の計画さえわからないという、私の理解を超える神様の偉大さを受ける信仰がこの真空だといいます。
この真空という心の隙間に、目に見える形の答えを求めてばかりいると、私たちは目に見えない超越した神様の御姿がわからなくなります。それゆえ真空は、真空である必要があるのです。ヴェイユは、真空には恩寵という恵みが入ると言います。「恩寵は空いているところを満たす」と言うのです。
またこの真空を作るのも恩寵であると言うのです。私たちの知性では知ることができない大きな恵み。それは、神様の恵みによってのみ知ることができます。真空を満たすものを知性を使って集めるのではなく、神様が満たしてくださることを恵みを通して受け取るのです(『重力と恩寵』六〇、六四頁)。
この真空が、神様が私たちに見せてくださる暗闇です。暗闇には神様がおられないのではなく、一点の光である神様が希望を照らそうとしているものです。私たちは、この神様の光を待ち望むのです。この光こそが、神様が私たちに下さる信仰です。「魂を照らす神の光」(ウェスレー)がこの真空を照らし、超越した神様が現れてくださるのです。
※中村穣先生のYoutubeチャンネル「信じても苦しい人へ」が始まりました!
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※好評連載につき単行本化『信じても苦しい人へ 神から始まる「新しい自分」』