~Daily Light~ 第14回 ルーティン
石居麻耶 Maya Ishii
千葉県出身。アーティスト。画家。イラストレーター。東京藝術大学大学院美術学部デザイン専攻描画造形研究室修了。
大学卒業後の個展やグループ展等の展覧会やホームページ、ブログで発表した作品をきっかけに本の装画、週刊誌、文芸誌、新聞連載のイラストなどの仕事を担当。
どんなに美しくたくましい花でもいつかは枯れてしまうけれど、その花の生きた証しはいつまでも心に残り続けることがあるように、同じ場所のあまり変わりがないような何気ない景色でも、感動が日々重なることによって、今日見ている光景が少しずつ特別なものになってゆく気がしているのです。
その日、私は快速電車を一本見送り、普通電車に乗りました。降りた駅の最寄りのパン屋では、通りかかるときはたいてい売り切れている特製の食パンが、焼きたてで並んでいました。「まだ温かくてふかふかだから、つぶれないように気をつけてね。」購入したパンを手にして、陽の光に背中を押されて歩く並木道の木々は黄金色に輝いていました。
好きになれるものが増えてゆくというのは、たとえるならば花畑を見ているような気持ちになることでしょうか。大切なことを覚えていようと思うことは、いつも当たり前のように見ていた花がかけがえのない花だったと知るということでしょうか。
今日も誰かにとっては特別な日で、それはどこかで他の誰かにとっても特別な日になるかもしれない。そんな毎日を想像すると、日々は、本当はいつも素敵なもので満ちているはずと思えたりもするのです。
かつて私の隣を歩いていた人がこういうことを言っていました。「インターネットに投稿する言葉は、好きなことや大切に思うことを書くようにしたいね。好きな食べ物や花、お気に入りの音楽や風景とか。好きなことで心がつながれたほうが嬉しいし、続くと思わない?」
そのとき私は、「そうだね」と言いました。「そうだね」と、その日から今でも、私は日々そう思い続けています。
「神が造られたものはすべて良いもので、感謝して受けるとき、捨てるべきものは何もありません。」
(テモテへの手紙第一、4章4節)