~Daily Light~ 第15回 クローバー
石居麻耶 Maya Ishii
千葉県出身。アーティスト。画家。イラストレーター。東京藝術大学大学院美術学部デザイン専攻描画造形研究室修了。大学卒業後の個展やグループ展等の展覧会やホームページ、ブログで発表した作品をきっかけに本の装画、週刊誌、文芸誌、新聞連載のイラストなどの仕事を担当。
木々の葉は季節の変わり目に散ってゆきますが、「言の葉」は散れども、心に残りゆくことがあります。
幼稚園時代に友だちの家に遊びにいった日のこと。子ども7人くらいの集まりでそれぞれの子どもたちの母親も一緒で、子どもたちは駆けまわって遊び、母親は母親同士で賑やかに盛り上がっていました。特にその家のお母さんは、いつも明るく開放的な印象の人でした。
そんなとき、追いかけっこをしていた子たちが部屋にあった本棚にぶつかり、そのまま外に走り過ぎていきました。そのはずみで飛び出た数冊の本から、ひらりと落ちる何か。その瞬間、その家のお母さんが「これはお父さんが大事にしていた本だから……だめ!」と、見たことのない真顔に。
それは、若くして亡くなったお父さんが生前、心に残った箇所に四つ葉のクローバーを挟んでいた本でした。透けるように薄い葉は離れ離れになってしまっていましたが、私はそれを拾い上げて、その家のお母さんに手渡しました。
「ありがとね。まあ、いつかは仕方ないのだけどね。お父さんも、もういいよって言っているのかもしれないし。」
私はそのあと、四つ葉のクローバーがどこかにあるかと近くの草むらを探し回りましたが、深く陽が沈む頃まで探しても、とうとう見つかりませんでした。別れ際、「お父さんの形見はなくなっちゃったけどさ、これからは心の中にとっておくから大丈夫だよ」と語っていたその家のお母さん。
そして居間に貼られた亡きお父さんの写真は、四つ葉そのものに幸せがあるのではなく、四つ葉を探そうと過ごした時間の中に大切なことがあると、微笑みながら語っているように見えたのでした。
「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべてのことにおいて感謝しなさい。」(Ⅰテサロニケ5章16~18節)