~Daily Light~ 第16回 さくら通り
石居麻耶 Maya Ishii
千葉県出身。アーティスト。画家。イラストレーター。東京藝術大学大学院美術学部デザイン専攻描画造形研究室修了。
大学卒業後の個展やグループ展等の展覧会やホームページ、ブログで発表した作品をきっかけに本の装画、週刊誌、文芸誌、新聞連載のイラストなどの仕事を担当。
桜が咲く頃になると「来年もまたこの桜が咲くのを見たい」という、病との闘いの日に語られた、今も力強く歩む盟友ともいえる人の心からの言葉を思い出します。
「命を削って作っているからね」と地元のパン屋さんが語る「命」。大学時代の講義で見た解剖された人体。見送った亡き人たちの身体。そこにあった「命」。春とともに咲き、そよぐ風に舞い散り、再びの春に花開く桜。普段は日常から切り離されている死と、そして復活とをやわらかに表現している桜に「命」を見た気がしました。
舞い散る桜はさよならを思わせる印象も強いけれども、それは単なる別れの意味ではなくて、今日の思いわずらいとか哀しみとか、心に抱え過ぎたものに距離をおいて向き合い、明日に希望を持てるためのものなのかなと感じています。また、“死ぬのが怖いから生きている”とか“死んでいないだけ”ではなく、恐れや不安、苦しみや弱さを抱えつつ生きる私たちの気持ちを「生かされているかけがえのなさや喜び」に向けてくれるものでもあると思えています。
心深くしみいるような記憶や光景は、時が経っても昨日のことのように思い出されます。それはそこにただ懐かしさがあるだけではなく、その日そのときを大切に過ごした証しがあるからではないでしょうか。その人にしか表現できない生きる姿が証しとなり、周囲の人たちの心に軌跡を残してゆく。桜は静かに気づかせてくれます。絵は描けないという人でも、神様から与えられた「一生」というキャンバスに、唯一無二の絵画を描いてゆけることを。
「わたしはあなたがたに平安を残します。わたしの平安を与えます。わたしは、世が与えるのと同じようには与えません。あなたがたは心を騒がせてはなりません。ひるんではなりません。」(ヨハネの福音書14章27節)