~Daily Light~ 第17回 いこいのみぎわ
石居麻耶 Maya Ishii
千葉県出身。アーティスト。画家。イラストレーター。東京藝術大学大学院美術学部デザイン専攻描画造形研究室修了。
大学卒業後の個展やグループ展等の展覧会やホームページ、ブログで発表した作品をきっかけに本の装画、週刊誌、文芸誌、新聞連載のイラストなどの仕事を担当。
月日があっという間に過ぎてゆくと思われる中で、日常のささやかな心動くひとときや、まばたきほどの瞬間でさえもすぐそばに咲く野の花のように覚えていられるのなら、その色彩は永遠に色褪せないのでしょう。道端のコンクリートブロックの隙間から緑の小さな葉が顔をのぞかせています。日々のかけら。毎日の中で言葉を交わしたくなる風景。それらはみな、どこか平安で温かい記憶を含んでいる気がします。
子どもの頃、公園で友だちや妹と砂場で山を作ってトンネルを掘っていたとき、それぞれの方向から掘り進めていたお互いの手がつながった瞬間の温もりと光。子どもたちが口々に言う「ねえねえ」「あのね」「どうして?」「なんで?」。木々の葉は規則正しいようでいて、同じ葉は一枚もないこと。5月に満開になるハンカチの木。青空の色を映したようなネモフィラの花々。届いていたメールには「また会いましょうね」。「さようなら」と言って交わした握手のやさしさ。姿が見えなくなっても振り続けていた手。日々の歩みにおいて見つけたさまざまなかけらを、そのまま心のポケットに。
「お元気ですか」と書いた「見えない」手紙をたくさんポストに入れました。初夏の風があなたの元にも届けてくれているかもしれません。
自然が変化し、命を見送るとき、私たちも変わりゆくもののひとつであると気づかされます。変わりゆくことが変わらないもの。不安もいつまでも同じ姿で目の前にあるわけではなく、過ぎた日の言葉にできなかった気持ちに問いかければ、希望が姿を現すことだってあります。「どうしていますか?」
目覚めて出会える日々に「こんにちは」。そして、今日という日にいつも「ありがとう」という気持ちで。
「主は私を緑の牧場に伏させ いこいのみぎわに伴われます。」(詩篇 23篇2節)