~Daily Light~ 第19回 白い色鉛筆
石居麻耶 Maya Ishii
千葉県出身。アーティスト。画家。イラストレーター。東京藝術大学大学院美術学部デザイン専攻描画造形研究室修了。
大学卒業後の個展やグループ展等の展覧会やホームページ、ブログで発表した作品をきっかけに本の装画、週刊誌、文芸誌、新聞連載のイラストなどの仕事を担当。
私の思い出の箱の中には卒業アルバムや色紙などとともに、筒型のケースに入っている12色の色鉛筆があります。
急に転校すると決まった小学生のときのこと。そのとき偶然にも私と誕生日が同じ日である担任の先生が、誕生日に筒型のケースに入っている12色の色鉛筆をプレゼントしてくださったのです。それはいつも先生の机の上に置いてあったものだったので、別れ際に記憶に残る印象深い品になりました。このような色鉛筆は今でこそよくあるものですが、小学生の私にとっては筒型のケースが大人っぽく見えてめずらしく、新しい学校でも隣の席の子が「それ、面白いね!」と話しかけてきてくれて良いきっかけになったりもしたのです。
それから年月が過ぎ、想像もしなかった日々を過ごすうちに、色鉛筆を下さった先生とはいつしか音信不通になってしまいましたが、誕生日を迎えるたびに思い出され、絵を描き続けるうちに色鉛筆は短くなってゆきました。ただ、白い色鉛筆だけは長いままでした。
白い紙の上では描いても見えない白い色鉛筆。「見えないことはないことにはならないよ。」私にそう語ってくれた人の声はもう聞けないけれど、心の中で響き続けている。それは、人の生死が肉体だけがすべてではないことを示している気がします。健康診断で数値に問題がなくても、何らかの生きづらさを感じていることがあるように。だから私たちは見えないものに祈ることができるのでしょうか。
中学校で美術部に入った私は、あるとき使わずにいた白い色鉛筆を取り出して黒い紙に一本の線をひきました。そこに現れたひとすじの光。それは、ふさぎきれない傷跡のようでもあり、明日へと切り開かれた光跡のようでもありました。
「まことの光がすでに輝いているからです。」
(ヨハネの手紙第一2章8節)