ヘブル語のススメ ~聖書の原語の世界~ 最終回 動詞の話②

城倉啓
1969年、東京生まれ。西南学院大学神学部専攻科修了後、日本バプテスト連盟松本蟻ケ崎教会の牧師就任。
2002年、米国マーサ大学マカフィー神学院修士課程修了後、志村バプテスト教会牧師を経て、現在、泉バプテスト教会牧師、東京バプテスト神学校講師。

 

動詞の主語となる「人称・性・数」、話者の気持ちを伝える「視座」に続いて、最後に「語幹」の話をします。語幹のことを談話態ともいいます。七つの語幹は、能動・受動・使役・再帰・強調等の動作の種類を伝えます。

七つの語幹にはそれぞれ名前があります。パアル、ニファル、ピエル、プアル、ヒフィル、ホファル、ヒトパエル。なんだか呪文みたいですね。

パアル語幹は能動(~する)、ニファル語幹は受動(~される)、ピエル語幹は強意能動(はなはだしく~する)、プアル語幹は強意受動(はなはだしく~される)、ヒフィル語幹は使役能動(~させる)、ホファル語幹は使役受動(~させられる)、ヒトパエル語幹は再帰(自分自身に~する)。これらが、それぞれの語幹の基本的な意味です。

では「隠れる」という意味の動詞三人称男性単数の完了・未完了で、七つの語幹を比較してみましょう。

のことを三語根と呼びましたね。語幹の種類を見破るヒントを、表を見ながら確認してください。
まずは文字が増えている語幹です。未完了視座はすべて三語根の前にが付いています。第二語根と第三語根の間にが入っているものは必ずヒフィル、二文字増えているものは必ずヒトパエルです。ヒフィルとヒトパエルの特徴は完了においても同じです。
次に完了視座。語幹によってばらつきがありますね。が増えていたら必ずニファルです。が増えていたらヒトパエルかヒフィルかホファルを疑います。文字が増えていないものはパアルかピエルかプアルです。
ここで増えた文字ではなく、三語根そのものにも目を向けましょう。文字の真ん中に「点(ダゲシュ)」が打ってある語幹があります。ピエル・プアル・ヒトパエルには完了であれ未完了であれ第二語根に強ダゲシュがあります。ニファルの未完了には第一語根に強ダゲシュがありますここで注意です。ヒフィル・ホファルの第二語根は弱ダゲシュです。第五回の学びを思い出して、ダゲシュの強弱を区別してください。
以上が暗号解読のすべてのヒントです。これらを駆使して、動詞の意味を特定する練習をホセア書一三章一四節でしてみましょう。

第一の単語は、「憐れみ」または「悔い改め」という意味の男性名詞・単数・独立形です。第三番目の単語は、前置詞「~より」と、女性名詞・双数・合成形「~の両目」と、人称語尾一人称・共通・単数「私の」が合成されたものです。この一単語で、「私の両目より」を意味します。
第二の単語から動詞の匂いがぷんぷんします。まず冒頭の文字がです。未完了ではないでしょうか。試しに切り落とすと、三文字が残ります。三文字は動詞の三語根では。しかも第一語根に強ダゲシュがあります。第一語根に強ダゲシュがあるものは、ニファル語幹の未完了しかありません。そこで、この三語根をもとにパアル・完了・三男単を復元して、で辞書を引きます。ありました。確かに「実在する単語」です。意味は「隠れる」。ニファル語幹は、「隠れる」の受け身ですから「隠される」です。
さあ三つの単語をまとめ上げて意味をなす一文を作りましょう。「憐れみ(または悔い改め)が、わたしの両目から隠される」。文脈は北イスラエル王国に対する神の裁きの予告です。興味深い表現です。神の憐れみの眼差しはずっと民に注がれているのですが、しかし、民の背きがそれを隠すというのです。

いかがだったでしょうか。かなり端折ったヘブル語文法入門でしたが、全体像(すべての品詞)と勘所は描けたかと思っています。少しでも興味を持ってくださる方が増えたら、これ以上の幸いはありません。

※1年間ご愛読いただき、誠にありがとうございました。
 この連載に新たな内容を加え、書籍化予定です! 詳細は後日、本誌に掲載します。