~Daily Light~ 第22回 岸のほとり
石居麻耶 Maya Ishii
千葉県出身。アーティスト。画家。イラストレーター。東京藝術大学大学院美術学部デザイン専攻描画造形研究室修了。
大学卒業後の個展やグループ展等の展覧会やホームページ、ブログで発表した作品をきっかけに本の装画、週刊誌、文芸誌、新聞連載のイラストなどの仕事を担当。
手に届かないものを手に入れたいと願うのではなく、届かぬ手でもこの先の希望へ祈りを紡いでゆけたらと、名前も知らない星のようなものを静かに思い続けています。
目に見えていても見慣れると見失うもの。台に乗ったコップなど楕円の底面があるものを紙の上に描こうとするとき、きちんと描けているかを確かめるには、その紙を逆さまにすると気づけると美術の先生に教えてもらったことがありました。きちんと描けているつもりでいても、逆さまにすると思いのほか楕円が歪んでいることを発見できるのです。
思い起こすこと。時は傷を癒やし、痛みを消してくれることもあるけれど、時を経ても傷跡になってずっと覚えて思い出されることもあれば、消えない痛みを心身に感じることもあります。時に悲しみの中でも生き続けねばならない私たちは皆、常に生と死の境をさまよっているといえるのかもしれません。しかし、悲しみの歌が私たちの心にある悲しみを癒やし、姿を変えてくれることがあるように、世の悲しみの中にあっても想いを言葉にして祈ることで、いつしか心のあり方が変えられていることもあります。
記憶の中で小さく聞こえる波の音を持ち出してきてもそれは同じように響きはしないので、私は海辺に佇み、たった今打ち寄せる波の音に心を響かせ、祈りたいと思いました。近くて遠い人の胸の内に届くように。聞こえぬ声、届かぬ音でさえも心に遠く響くように。
それが、家族、友人、親しき人たち、すべての愛すべき人たちのために祈るということなのでしょうか。
「あなたの指のわざである あなたの天/あなたが整えられた月や星を見るに/人とは何ものなのでしょう。あなたが心を留められるとは。人の子とはいったい何ものなのでしょう。あなたが顧みてくださるとは。」(詩篇8篇3~4節)