書評Books 罪の赦しあるところに命がある

神戸ルーテル神学校教授 橋本昭夫

 


『罪の赦しについて』
カール・オルーフ・ロセニウス 著
レア・ルッカ 訳
A5判・定価660円(税込)
いのちのことば社

『罪の赦しについて』という書名は地味に響く。「罪の赦し」を言わないクリスチャンはいないであろう。しかしいつしか「旧聞」扱いになってはいないか。目を引く多くのタイトルの中、キリスト教を唯一の福音とするのは何かを不断に問うことを忘れてはなるまい。なぜなら「罪の赦しのあるところに命があるから」だ(ルター)。 

本書は、十九世紀半ば、スウェーデンで信仰覚醒の指導者のひとりであったカール・オルーフ・ロセニウスの手による「短編」の翻訳である。「罪の赦しを得ていなければ」、たとえ何であっても「キリスト者ではありません」とロセニウスは言う。ルターの語っていることに重ねて、罪の赦しはキリスト教の教えの「最重要事項」であり、「偉大なこと」だとも。

しかし、それを「正しく理解」することも、日々自分に「適用」することも「きわめて難し」く、さらに「罪の赦しを経験した人」であっても、そこに立ち続けることは、「簡単ではない」、「わかったような気になって」しまうような「もっとも困難なもの」であって、それには信仰者は生涯「未熟な弟子」であると看破される。

キリストにある罪の赦しは、すでに成し遂げられたもので、私たちはそれによってすでに「神と和解させていただいた」(完了形)。私たちの「打ち砕かれた心、悔い改め、祈り、改善」による、これからのことではない。著者は「放蕩息子」を説明しながら、罪が赦されることの「驚くべき恵み」を深く牧会的に語りかけている。赦され、目を覚まし、罪と戦う中にも、キリストが弁護者でいてくださることも忘れられてはいない。小著ながら、罪に悩む信仰者に、慰めと励ましに満ちた徹底した福音が語られている。

訳者は、フィンランド出身、在日四十年のレア・ルッカ宣教師。先生が、神がロセニウスを通して与えられた「深い知恵と励まし、戒めと慰めの言葉を日本の方々にぜひ紹介したい」との熱い思いから訳された。ロセニウスの紹介、平易な日本語訳、スウェーデン語からの説明など、先生の丁寧なお人柄が行間に感じられる珠のような書である。