書評Books でこぼこ道でも、ゆるりと散歩したい!

インマヌエル高津キリスト教会 牧師 藤本満

 

『オカリナ牧師の聖書ゆるり散歩』
久保木聡 著
みなみななみ 絵

B6判・定価1,320円(税込)
いのちのことば社

本書の扉を開くと、みなみななみさんの、ふんわり味わいのある挿画が出てきます。遠くに鹿児島の知林ヶ島があり、干潮の時だけ出てくるゴツゴツした道を、子連れで歩く人、犬と共に散歩する人、そして著者と思わしき人物が「ゆるり」と歩いています。そこかしこに挿入されているななみさんの絵は、著者の思いをそのまま絵にする最高の出来映えです。
優れた内容なのに、タイトで隙のないインテリな書き方をする人がいます。大切な話なのに、ゆるゆるに書く人がいます。読者にも好みもあるのでしょうが、筆者には、本書を読んで、これほど心に入る文章に出合ったことがない!と、ため息をつき、「これほど完成度が高い本を書いてしまうと、次を出しにくいのでは?」と著者に連絡してしまいました。
「自分の心を守る」と題された一章には、人の賞賛を求めて苦労するのではなく、自分の労苦に満足を見いだすことの大切さ、疲れた時には自分をいたわり、次に備えることが人間らしいこと、人の言葉で傷ついた時には、突き刺さった矢を、聖書のみことばに励まされて抜いてしまうこと等々。オカリナ牧師とお茶をしながら、ゆるりと時間が過ぎていきます。
二章は「祈りの散歩道」。三章は「人生の夜に灯るあかり」と題して、一人で過ごす夜のホテルで、コーヒーの生豆を焙煎する時に出てくる「パチパチ」という音、青ざめるほどの失敗をした時、オカリナのレッスンで何度も間違える時。筆者は、人生の散歩道に毎日出てくる日常的な「夜の課題」にあかりを灯す知恵をそっと教えてくれます。
四章は「自分らしく生きる」。そしてこの時期にありがたい五章は、「クリスマスの光」です。挿画が出てきます。居場所を失った者を照らす光、「悲しみは暗闇としてあなたを飲み込むものではなく、むしろ輝き始めます」(九一頁)という著者の言葉を、ななみさんは、夜に羊の番をしながら星を見上げる羊飼いの絵で表現しています。コロナ禍に苦しめられた私たちを癒やし、力づける本です。