書評Books 愛する人を天に送る
ゴスペル・シンガー 本田路津子
『再び季節が巡るまで
妻を喪った僕の3年』
木下滋雄 著
B6型判・定価550円(税込)
いのちのことば社
あるとき、「男性が妻を亡くした時の喪失感は、他の家族を失った時と比較にならないほどの大きな心の打撃となる」とラジオで聞きました。どの別れにも大きな悲しみがともない、一概に言えることではありませんが、この本の著者の木下滋雄氏は、まさにこのことを経験されました。
木下さんの記事がクリスチャン新聞の福音版に掲載されたころ、毎月続きを読むのが楽しみとなり、次号が待ち遠しいくらいでしたが、今回、その連載が小冊子となり、一気に読むことができた新たな感動をいただきました。
夫婦は長年連れ添っていると、「お互い空気のような存在になります」とよく耳にしますが、本書の中で「自分たちは仲の良い夫婦」と書いておられるように、この本からは夫婦は一心同体であることを教えられます。
体の一部がもがれてしまったとき、自分が自分でなくなってしまい、どこに消えてしまったのだろうと苦しみ、著者は、「この世の楽しみはすべてなくなり、今、抜け殻のようになっています」と心の内を表しています。
妻の直子さんの闘病生活に見られる信仰。病気や死を受け止めなければならない家族。経験した者でなければ表せない一つ一つのことばを、多くの方に読んでいただきたい一冊です。
この本を読んでいる間中、直子さんへの愛おしさが伝わってきました。私は女性なので、かえって木下さんの思いを受け止めやすかったのかもしれません。
そして、ベートーベンの美しい曲 「Ich liebe dich 御身を愛す(きみを愛す)」(ヘルロッゼー作詞・堀内敬三訳詞)の詩とメロディーが心を巡りました。「愛する想いは朝夕たええず ふたつの心は 離るる日なし……憂きも楽しきも 共に分かたん 君と共に……み神は我らを 恵みたまわめ 恵みたまわめ 我らを」
木下さんへこの詩を贈ります。新しいご家庭も素晴らしい愛が紡がれますよう祈りを込めて。