書評Books 知識と愛がひとつになった一冊
北海道聖書学院院長・若葉キリスト教会牧師 松元 潤
『私たちは勇気を失いません
病と闘う青年に宛てた41通の手紙』
内田和彦 著
四六判・定価1,540円(税込)
いのちのことば社
人生が上り坂だと信じて疑わない充実期に、突然命の終わりを予感した人の絶望はどれほど深いものだろうか。教会には時々このような方との出会いがある。この書に見える宣教・牧会のわざを見事に神学でつなぐ著者の見識の深さと、主の愛の現れとして優しさを運ぶ著者の平易な言葉選びには、敬服に堪えない。最終的な救いは神ご自身のみわざであることは言うまでもないが、伝道や証しは伝える者の内側に豊かな知識の引き出しがあり、それが深い人間観と結びついて適用されていくなら、大きな説得力を持つ。
本書は、神学することは神と人を愛することであり、知識と愛がクリスチャンにとって、ひとつのものであることを証明している。以下は、特に私が教えられた三点である。
①四十一通の手紙の通奏低音は組織神学である。だから、どんな求道者と向き合うときにも、この書の骨格を応用して、相手の状況に合わせてアレンジすれば個人伝道ができるようになっている。特に教えられた展開は、第十二信のテーマ「神が三位一体であるとわかると、見えてくるもの」である。神論の最難関である三位一体の教義がかえって神に親しみを覚えることができるように説明されている。
②対話的で読みやすい。重い病を背負ってもなお「神を信じない」と言う手紙の受け取り手に対して最大限の想像力を働かせ、相手の興味関心や著者自身の子どものころの体験を通して神と共に生きる幸いが伝えられている。
③神義論を底流に、人生にある苦しみの意味を丁寧に説明している。なぜ自分はこのような病気になったのかと深く考える青年に対して、著者は「1 どうして悪が存在するのか、2 神はどうして悪が存在するのを許容されるのか、3 神ははたして傍観しておられるのか」といった問いを立て、それに答える形で十通の手紙を記している。そして、これらの問いに答えながら青年自身が「自分の罪と向き合うこと」へ導くのである。その結果、青年は永遠のいのちにあずかり、神の懐に憩う無比の幸いを得た。
本書が、諸教会によって学びや福音伝道・牧会のヒントとして用いられるなら幸いである。