神さま、 なんで? 〜病院の子どもたちと過ごす日々〜 第三回 「神さま、今回はあんまりやったわー」1

久保のどか

広島県瀬戸内の「のどか」な島で育ち、大学時代に神さまと出会う。卒業後、ニュージーランドにて神学と伝道を学ぶ。2006年より淀川キリスト教病院チャプレン室で、2020年より同病院医事部で、小児病棟の子どもたちのパストラルケアに携わる。2012年に開設された「こどもホスピス」でも、子どもたちのたましいに関わり、現在に至る。

淀川キリスト教病院こどもホスピス病棟には、治療のためではなく、大切な時間をできるだけ楽しく、ご家族と一緒に過ごすために入院してくるお子さんたちがいます。緩和ケアの目的で来られる子どもたちです。C君も緩和ケア目的で、こどもホスピス病棟に来てくれました。
Cくんは九歳の時に発病し、他病院で手術や治療を続けていました。こどもホスピス病棟には、月に一度、好きなことをしながら楽しく過ごすことを目的に数日間の入院を繰り返していました。初めて会った時からCくんは、自分の意見をしっかりと持っていて、芯が強く、とても思慮深い人という印象のお子さんでした。
こどもホスピス病棟に来てくれてから、Cくんはピタゴラ装置(NHK教育テレビで放映されている『ピタゴラスイッチ』に登場するからくり装置)を作ることにはまり、毎回少しずつ改良を重ね、大人たちがびっくりするような装置を完成させました。私は、Cくんのお手伝いで、毎回一緒にピタゴラ装置を作りました。
Cくんは考えることがとても好きで、ビー玉がスムーズに転がるにはどうしたらよいかを予想しながら、「ああしよう、こうしよう」「ここをもう少し変えてみよう」「そこに画用紙を挟んだらどうかな?」などと意見を出してくれました。私はただただCくんの指示に従って画用紙を切ったり貼ったり、微調整をしたりしながら、「Cくんはすごいな~」と感心するばかりでした。
Cくんが考えたピタゴラ装置が完成すると、お母さんやお父さん、スタッフにも披露してくれるのですが、大人たちは毎回その完成度の高さに驚かされていました。そのような大人たちの反応を見ることはCくんの大きな喜びとなっていたのではないかと思います。嬉しそうなCくんやお父さん、お母さんの姿は、私たちスタッフにとっても喜びでした。
ですが、そのような良い時間は長くは続きませんでした。少しずつCくんの身体は思うように動かなくなっていきました。大好きだったピタゴラ装置も作れなくなり、車いすに乗れる時間も短くなっていきました。
他病院での治療を控えていたCくんとベッドサイドでお話をしていた時のことです。私はCくんにこうお話ししました。「『Cくんの治療のことを、守っていてください』って毎日神さまにお祈りしているからね」と。すると、Cくんは「神さま」という言葉を聞いてびっくりした様子で、にやりと笑い、上を向いてから私の目を見て言いました。「え、神さま?」と。私は、「そうだよ、神さまは私たちの声を聞いてくれているんだよ」とお話をすると、Cくんは「本当に神さまは聞いてくれるの? でも、神さまより久保さん!」と言って、笑顔で私に向かって手を合わせて見せてくれました。
Cくんにとっては、神さまは目に見えない、遠い存在だったのでしょう。それよりも、そばにいて一緒に遊べる人のほうが身近に感じられたのでしょう。「私にできることはないとわかっています。それでも、私は神さまにくっついていますから、少しでもCくんが神さまの存在を身近に感じられるようにしてください、神さまお願いします!」と、心の中でとっさに祈ったことを覚えています。
治療を終えて戻ってきてくれたCくんの身体は以前よりもしんどそうでした。ベッドサイドに会いに行った私は、「何をお話しすればいいのだろう……」と無力感に包まれつつ、「Cくん、治療本当にがんばったね。久保さん、毎日神さまにCくんの心と身体を守ってくださいってお祈りしていたよ」とお話しすると、Cくんは「神さま、今回はあんまりやったわー。ほら……」。そう言ってスマートフォンを見せてくれました。そこには、他病院での治療中のCくんが感じたこと、思ったことが日記のように綴られていました。Cくんは毎日自分の気持ちと向き合い、自分の感情をスマートフォンに綴っていたのです。そして、その治療はとっても辛いものであったと教えてくれました。だから、神さまが今回はあまり力を発揮してくれなかったとCくんには思われたのでした。
“今回神さまはあんまりだった”けど、Cくんの中に神さまの存在がいるということに感動しつつ、私は伝えました。「わかった。神さまに、もうちょっとがんばってよ! ってお願いするね!」と。
Cくんは自分の身体と心に正々堂々と向き合っていました。Cくんが自分のいのちと真正面から向き合っている強さに本当に驚かされました。だから、私も自分の気持ちをごまかさずにCくんに伝えていきたいと強く思わされました。