書評Books スピリチュアルケアの在り方と実践
社会医療法人葦の会オリブ山病院 理事長 田頭真一
『ホスピス・緩和ケアのこころと実際
スピリチュアルケアの必要性』
柏木哲夫 著
四六判・定価1,980円(税込)
いのちのことば社
著者の柏木哲夫先生は、言わずと知れた日本のホスピスの第一人者です。現在も日本ホスピス財団とスピリチュアルケア学会の理事長を務めておられます。このお立場は、ホスピス・緩和ケアのこれまでと、現在とこれからを指し示す尊い立場といって決して過言ではありません。今回の著作にはそれがはっきりと刻まれています。
現在の緩和ケア病棟入院料が定められたとき、柏木先生ご自身が当時の厚生大臣とかけあったにもかかわらず、「ホスピス」という言葉が外されたという逸話から、まさにホスピスの起源と日本におけるその展開の流れを覚えることができます。超高齢社会となった日本、二人に一人ががんになるという時代、そして、もはや死という現実を否が応でも身近に覚えなければならない現代に、クリスチャンが信仰を持ってホスピス・緩和ケアにどうかかわるかという問いに対する指針が記されています。
副題にあるスピリチュアルケアの必要性が問われている中で、その在り方が実践と信仰からはっきりとした根拠をもって語られています。それは、イエス・キリストにある死の解決が与えられているクリスチャンのみが語れることであり、その責任が私たち一人ひとりに問われます。
私の勤めるオリブ山病院のホスピスケアも、柏木先生の、淀川キリスト教病院でのホスピスの働きに示唆をいただき始められたものです。今や再び大きな変化を経験しているホスピス・緩和ケアですが、ホスピスの意義をもう一度確認し確かな実践を行うために、当院でも先生の著作を用いてスピリチュアルケアの学びを深める計画を立てています。
とは言っても、これは医療専門職や病院内でのケアだけの内容ではありません。具体的には、「柏木節」とも言われるユーモアを交えた切り口で、終末期という死を目前にした重い時期を平穏に過ごし、さらには豊かにできる術がちりばめられています。それは罪の支払う報酬としてだれもが迎える死に対して、死は勝利に吞まれてしまったという、イエス・キリストの救いの確かさがあるという確信に裏打ちされた信仰告白として受け取ることができるのです。