書評Books 原語に忠実、分かりやすく正確な日本語聖書を

OMFインターナショナル・メコン流域・ミェン族への宣教師 有澤達朗

『みことば 第3号 聖書翻訳の研究』
新日本聖書刊行会 編
A5判・定価990円(税込)
いのちのことば社

本書には、『聖書 新改訳2017』の(表題のような)翻訳理念を支える聖書学者と言語学者による三つの論考が収められています。

第一論考は津村俊夫氏の「新改訳2017と協会共同訳との比較――ハバクク書3章」。同氏の近刊『ヘブル詩の文法』の試食ができます。二行詩の基本的読解、ヤヌス並行法、三行詩や四行詩を読み解く「垂直文法」等、学会最高水準の研究成果がギッシリ。もはや世の旧約学者は津村氏の『文法』を無視して預言書や詩篇の注解書を書くことはできないでしょう。『協会共同訳』もタイ語やミェン語聖書も、ESVでさえも、津村『文法』以前の翻訳は再考を迫られています。そんな味がここに凝縮されています。 

第二論考は、岩本遠億氏の「チュートリアル:日本語のテンス・アスペクトの概要⑴――『会話』のテンス・アスペクト」。テンスとは動詞や節の時制のこと。アスペクトは事象や動作の様態を表す「相」のこと。母語話者には、分かっているつもりでも説明するとなると困難、という文法範疇です。「スル」「シテイル」「シタ」「シテイタ」の意味分析を緻密に、かつ牧師の心で解説してくれます。

第三論考は、岩本論考を受け松本曜氏が書いた「日本語のテンス・アスペクトと、『新改訳2017』の訳文」。岩本氏の「時制・相」の研究成果が『新改訳第三版』から『新改訳2017』への大改訂にどう反映したかを例証しています。松本氏の専門領域の一つ、言語類型論(諸言語を比較し共通する普遍性と相違を認識する)がヘブル語、ギリシア語、日本語を跨ぐ橋渡しに躍々としています。 
本書は、「耳に心地よい話を聞こうと、自分の好みにしたがって」(Ⅱテモテ4・3)聖書を読もうとするユーチューブ時代の風潮に対する、言語データに立脚した凛々たる警鐘でもあります。教会員で語学教師がいれば本書の学び会のリーダーになっていただき、大学の聖書研究会、釈義授業、牧師会で読み合わせるなら、言語事実(原語と日本語)に謙虚になって聖書を読む敬虔が養われるでしょう。「日本語で原語インパクトを!」を探求する本です。