書評Books 今、なぜジョージ・ミュラーなのか
同志社大学教授 木原活信
『ジョージ・ミュラーの祈りの秘訣』
ジョージ・ミュラー 著
松代幸太郎 訳
四六判・定価1,430円(税込)
いのちのことば社
一九世紀にブリストル孤児院の創設者、伝道者であったジョージ・ミュラーは「信仰の人」として名高い。その青年期は逮捕歴もある「罪人の頭」であったが、神学生の時に敬虔主義の信徒の祈りの光景に触れて「新生」した。その後、イギリスにわたりブラザレン運動に遭遇し、神だけに頼る決心をし、国教会の「職業牧師」を返上し、独立伝道者、孤児院運営に献身した。このミュラーの珠玉の祈りの言葉を編んだ本書が今回復刻された。私もここ七年間集中的にミュラー研究をすすめてきた。その一部はすでに学術論文として発表し、来春に学術的に検証した成果を公刊予定である。
今、なぜジョージ・ミュラーなのか。それはミュラーを「偉人」で終わらせるべきではなく、キリスト教界、福祉界に投げかける現代的意義が大きいからである。ミュラー自身も本書で以下のように述べている。「私が愛をもって警告したいことは、これらの事柄はジョージ・ミュラーに特有なものであり、神の子どもすべてが享受できるとは限らないと考えないようにということである。そういう考えはサタンのものである」(三五頁)。つまり、彼の切なる願いは、「ミュラー経験」を特殊扱いしないことであった。ということは、今もミュラーのような信仰と祈りの姿勢が求められている。
本書は、祈りの効用のノウハウを教えているわけではない。ミュラーが言及した「神のみこころを確かめる方法」では、①「自分の心が全く意思を持たないような状態になる」、②「感情と漠然とした考えにはゆだねない」、③「聖書を通して……御霊の御思いを求める」、④「状態を考慮に入れる」、⑤「祈りのうちに、神にご自身のみこころを正しく示していただく」、⑥「心が平安」であることを確認するという方法である(一一~一二頁)。これを日々実践することが重要であると説いている。
今、混迷の時代にあらためてミュラーの信仰と「祈りの秘訣」を再考するため、本書が多くの方々に読まれることを切望する。