書評Books 加害者が変わるプログラムでDVの根本的な解決を図る

聖学院大学 客員教授 藤掛 明

『DVからの家族再生
加害者が変わる5つの条件』
栗原加代美 著
中田朗 編集協力
B6判・定価1,430円(税込)
いのちのことば社

本書は、DV(夫婦間暴力)被害者を保護するための施設(シェルター)の働きを始めた著者の実践の書である。シェルターの運営だけでもすごいことであるが、この後がさらにすごい。DVの解決策として離婚を推し進める方法に限界を感じた著者は、加害者が暴力から離れ、変わってもらうことで根本的な解決を図ろうとするのである。そしてシェルターの働きから、加害者更生プログラムへ活動をシフトさせる。ただ、加害者の更生に関わることは大変なことである。

実は、二十年と少しを私は、非行・犯罪の心理職としてすごした。非行も犯罪もそうであるし、依存症も暴力の繰り返しもそうであるのだが、そこに登場する加害者は皆、自分の非をなかなか認められない。素直に助けを求めないのである。

そして特に大事だと思われるのは、多少とも彼らが自分の非を認めることができるかということであり、著者が言うように、DV加害というのは暴力を行ったという行為によるものでなく、力で相手を支配しようとする関係性によるものだという気づきが必要になる。そして、そのための理論も紹介される。たとえば悪い習慣(批判する、責める、脅すなど)を使うのでなく、良い習慣(傾聴する、支援する、尊敬するなど)を使うように薦める。これらは、準拠する理論以上に著者の信仰と人間観が重ね合わせられたものと感じる。

本書は、さまざまな事情から更生のスタート地点に立った人が、ついには配偶者を傷つけたことを謝罪し、悔い改めに至ることを教えてくれる。この悔い改める姿は人の行為で一番素晴らしいと著者はいう。そして「DV加害者は変わらないと言われていますが、本当にそうでしょうか」と問いかけてくる。今日一般的となっている被害者の保護と離婚を推し進める方法に疑義を呈し、悔い改めるなら、神様は人にやり直す力を備えてくださっていると言うのである。
どことなく著者の言葉には伝道者のような響きがある。