書評Books よく考える信仰者にとって必読の一冊
グローバル・ミッション・チャペル/(平キリスト福音教会)宣教使牧使 森 章
『光の注がれた場所
フィリップ・ヤンシー自伝』
フィリップ・ヤンシー 著山下章子 訳
四六判・定価2,860円(税込)
いのちのことば社
よく考える信仰者(Ⅱコリント一〇・七参照)にとって必読の新しい一冊が世に出された。フィリップ・ヤンシー氏の自伝だ。
ヤンシー氏が一貫して綴り続けている、一見相容れないような「苦しみと恵み」というテーマが世界中の無数の(特に)信仰者に読まれてきたのは、キリスト信仰、聖書信仰について考え悩む人々がいかに多く存在するかを明らかにするものだ。
ヤンシー氏の自伝は、不思議と驚きの連続だ。読み始めると、知らずのうちに著者の人生に引き込まれている。いつの間にか私は、とても良く作られたドラマを観ているような錯覚に陥っていた。そのとたんに、それは著者の生々しい実体験の赤裸々な記述であることにハッと気づかされ、内容の壮絶さに厳粛な気持ちにさせられる。それが何度か繰り返された。
父親、母親、兄との関係の最初から次々と体験してしまう数えきれない混乱と心の傷と疑問。これほどまでに熾烈な苦しみの人生を生きてきたのか! やむことのない驚きの中で、『信仰による人間疎外』(工藤信夫氏著、一九九三年、いのちのことば社)という言葉が何度も私の頭をよぎった。私自身の育った境遇と重なるように思える部分もあった。
二〇一八年にヤンシー氏が福島県に来られ、初めてお目にかかったその時に、氏から感じた哀しみのオーラを思い出し、あれは氏の幼少期から今にまで続く家族の絆の分断がもたらしたものなのかと思った。
自分を束縛する家庭、教会、学校の中で癒やしがたい心の傷を抱えながら、自分ではない自分を演じ続けつつも、氏は本物を追求し続けた。そうしてついにイエス様に出会うのだ。やっとたどり着いた平安と喜び―光の場所。分断された家族の絆はすっかり回復したのではないが、今やすべての人生に注がれ流れる神様の恵みを見ている氏は、いのちの日の限り神様の恵みを書かずにはいられないと締めくくる。涙しつつ読み終えた。