京都のすみっこの 小さなキリスト教書店にて 第六回 ソーシャルワーカーのTさんが「メダデ教会」に行く理由
CLCからしだね書店店長 坂岡恵
略歴
社会福祉法人ミッションからしだね、就労継続支援A・B型事業所からしだねワークス施設長。精神保健福祉士。社会福祉士。介護福祉士。2021年より、CLCからしだね書店店長。
Tさんは、ミッションからしだねのソーシャルワーカーです。
だれでも病気になったり、年をとったり、身体が不自由になったり、仕事を失ったりして、日常生活に行き詰まることがあります。そんなとき、社会福祉のサービスや、さまざまな社会資源を組み合わせて支援計画を作り、困っている人のお手伝いをする専門職のことを「ソーシャルワーカー」と言います。
Tさんは、書店の配達もしてくれるソーシャルワーカーで、時には配達先の教会で、「うちの教会に困っている人がいるんだけど……」と相談を受けることもあります。
そのTさんが最近、大阪のあいりん地区そばの「メダデ教会」に足を運ぶようになりました。メダデ教会は、ホームレスだった人や前科のある人、暴力団や貧困ビジネスに利用された人、そんな事情から家族との縁が切れてしまった人たちなどが、生活を共にしている教会です。
「よく、メダデに支援に行ってるの?と聞かれることがありますが、違うんですよね」とTさん。
メダデ教会をつくった西田好子牧師は、毎朝三時に信者さんたちを引き連れ、近所の二十四時間営業のスーパーマーケットに行くそうです。その時間になるとお惣菜が半額になるからです。早起きして手に入れたものを、西田牧師とメダデの人たちは感謝していただきます。
あるとき、西田牧師の目は、八百屋さんの片隅に放置された売り物にならない野菜に釘付けになりました。「私な、あれ、狙ってんねん。あれ、分けてもらえへんかなあ」―このように西田牧師の暮らしは、すべてにおいて節約です。「この街を神の国のひな型にしたい」という、キング牧師の「I have a dream!」にも通じる夢の実現のために、お金がいるからなのです。
「西田牧師はだいたい、いつでも全力で怒ってるんですが、この間もまた激怒してました」とTさんは言います。
「ある人が、おかずとデザートを混ぜこぜにして、口の中にかき込んだ時です。西田牧師は、涙目でその人を叱りつけました。『あんたは人間なんや! 動物がエサ食うみたいなこと、するな!』って。西成の炊き出しに集まる人たちはよく『エサもらいに行こ』って言います。西田牧師はそれが許せないんです。メダデも近所の公園で炊き出しをするんですが、西田牧師は『私は炊き出しに集まってきたあんたらを、食べもんで釣ってる』ってはっきり言うんです。『そうでもせんと、あんたらは神の御言葉に耳貸さんやろ。そやけどな、この炊き出しは、ここにいるメダデの子らが、空き缶集めたり、一円でも安い大根を買うために駆けずり回ったりしてささげた、尊い献金から出てるんや。この子らも前はあんたらと同じで、エサもらいに集まっとった。それが神の御言葉聴いて、変わりよったんや。そやから、あんたらも炊き出しの前に、ちゃんと神の御言葉を聴いてください。』それから、西田牧師は長い説教を始めるんです。そしたら他のボランティア団体がやって来て、隣りで炊き出しを始める。みんな席を立って、そっちに行ってしまう。西田牧師、また激怒です。」
「Tさんは、メダデ教会のメンバーになりたい?」と質問すると、「私には無理です」と、きっぱり否定。
「西田牧師は、メダデの人たちのことを『うちの子』って呼びます。『うちの子』に、何があっても死ぬまで関わり続ける覚悟なんです。私は西田牧師やメダデの人たちにとっては外の人です。」
Tさんのスマホには、西田牧師からの愚痴とも相談とも、お願いともつかない留守電メッセージがいっぱい入ります。「外の人」にしかなれないと言い切るTさんだから、西田牧師は信頼しているのかもしれません。
「西田牧師は私が帰るとき、一本ずつ個包装した高級バナナをこっそり持たしてくれはるんですよ。『私、こんな高いバナナ食べたことないし、西田先生食べてください』って言っても、『私はいいねん。あんたに食べてほしいねん』って。きっと『うちの子と仲良うしてくれて、ありがとうな』という気持ちなんだと思います。あ、高級バナナは、皮にちょっと傷がついたけど中は十分高級です、というやつだと思います。八百屋さんと交渉して、そういうのを外の人へのおみやげ用に、ちゃんと用意するのが西田牧師です。」
ソーシャルワーカーのTさんは、メダデに行くと、自分自身が問われるのだと言います。
世間体にこだわって、本当に大事なことを見失っていないか。ソーシャルワーカーとしての仕事が、上から目線の「エサを与える人」になっていないか、と。