書評Books 初学者に配慮したハンディなコンパニオン
西南学院大学名誉教授 小林洋一
『ヘブル語語彙集』
城倉啓 編
B5判・定価1,980円(税込)
いのちのことば社
独創的文法書に続いて、このたび同著者によるヘブライ語の語彙集が上梓されました。喜ばしいかぎりです。初学者への配慮でしょうか、本書には母音記号も容易に識別できるように大きなフォントが使用されていています。本文にチャレンジする人のための日本語によるツールがまた一つ増えたことを嬉しく思います。本書が辞典ではなく「語彙集」であること、また簡便さを優先していることを理解しつつも、気になる諸点を以下簡潔に記します。
まず、煩雑さを避けて、ケティーブ(K)を重視してケレ(Q)は取り上げない、との編集方針についてです。七頁の地名 「??_ba?na?」 に対して、本文「アバナ」、新改訳「アマナ」とあるのですが、なぜ新改訳は「アマナ」なのか。それは新改訳がQを採用しているからです。しかし、これだと読者にはそれが見えません。本書には「音読不能」「意味不詳」が散見されます。これも大方はK―Q関連のものです。Qの紹介は多くの「不能」や「不詳」の解消に役立つはずです。
次に、動詞がパアル(基本形)のみがヘブライ語で示され、他の活用形は日本語の意味のみが記されている点についてです。巻末の活用表は確かに助けになりますが、本文における活用形から基本形に到るまでの(特に弱動詞)四苦八苦を踏まえますと、各態のヘブライ語の提示は大きな助けになると思います。
最後に、本書には、通常Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ等で区分される同形(同綴)異義語(nomonym)の指示がありません。たとえば、一三七頁の「?a?na?」のパアルが「答える。叶える。証言する。従事する。やつれる。たじろぐ。苦しむ。歌う」と多義語(polysem)として示されています。初学者はこれを見て「?a?na?」に、どうして「答える」だけでなく、特に「苦しむ」と「歌う」という反意的含意があるのかと戸惑うことでしょう。辞典HALOTは、この「?a?na?」をnomonym numberを使ってパアルⅠ「答える」、同Ⅱ「苦しむ」、同Ⅲ「務める」、同Ⅳ「歌う(賛美)」としています。本書では参照章句がないため、惜しくもその章句の確認ができません。本書の進化に期待するところ大です。