書評Books 多彩なクリスチャン経営者が経営の根本を教えてくれる本

株式会社チュチュアンナ会長 上田利昭

『近代日本の
クリスチャン経営者たち』
山口陽一 著
B6判・定価1,100円(税込)
いのちのことば社

 

著者は、日本キリスト教史を専門とし、東京基督教大学の教授であり、学長を務めておられます。本書は明治期から戦前期の初代クリスチャン経営者たちについて書かれています。この時期、日本全国で多彩なクリスチャン経営者が起こされました。神様は彼らに志を与え、実行に至らしめ、多くのよい実が結ばれました。
特に私が感銘を受けた人物は、ノリタケの創業者、森村市左衛門氏です。グループ会社である「TОTО」という会社は、かねがね良い会社だと思っていましたが、日本のトップ企業の一つの創業者がクリスチャンであったことを初めて知りました。彼は、「民権が起こらなければ、(中略)国が栄えるものでない」と語っています。また、経営理念に、「積極主義、先取主義、信用と公益性」を掲げ、薄利多売という考え方を提唱しました。
東京大学名誉教授の土屋喬雄氏は、その著書『続日本経営理念史』の半分ほどを割いて、「キリスト教倫理を基本とする経営理念」を取り上げ、この森村氏を、戦前における数少ない「道義的実業家」であると高く評価されています。キリスト教は、社会的弱者に寄り添いつつも、社会を変革する使命があることも大切だと言われています。
森村氏は、晩年は熱心に公衆の前で、キリストの証人として立ち、「義」と「気力」のある人物でした。「自分は一生の中に何も成功しないが、晩年基督教徒になったことが唯一つの成功だ」と語っています(三六頁)。森村氏が洗礼を受けた後のことばに、「小児に返りし如く、(中略)私欲の念も無く」(三五頁)と語っているところに、心がとまりました。その後、この会社は「森村グループ」として繁栄し続けています。私は、この方の考え方と生き様に大いに感銘を受けました。
この他にも活躍した、多彩なクリスチャン経営者の生き様が記されています。この本は、経営者、ビジネスマンはもとより、あらゆる人の生き方の参考になると思います。本書を通して多くのことを知り、教えられ、励まされました。一人でも多くの方が読まれるよう、お薦めします。