書評books グリーフケアへの招きは、 自分のいやしへの招き
玉川聖学院学院長 安藤理恵子
『キリストの愛に
基づくグリーフケア
エマオの途上を主イエスと歩む』
岩上真歩子 著
B6判・定価1,650円(税込)
いのちのことば社
「grief」という英単語は、死別や絶望による悲しみを意味します。この言葉が表現している「喪失による悲嘆」を「グリーフ」と呼び、その複雑さと重さに寄り添う必要を「グリーフケア」と名付けた働きが、二十一世紀に入ってから広く知られるようになりました。大災害やパンデミックによる死別と恐怖が世界を覆っている現代、人が生き続けるためのグリーフケアの必要はいよいよ大きくなることでしょう。しかし悲しみをこらえることを長く美徳としてきたこの国では、人々の本当の悲嘆はケアされないまま、むしろケアされるという可能性を知らないまま放置されることが多いのではないかと思います。
この書は、グリーフケアを聖書に基づいた神の愛の働きと位置づけ、そこに私たちがどのように参与できるかを、著者自身の実際的な取り組みから生まれたことばでまとめたものです。牧師であり心理カウンセラーでもある著者は、「心のケアミニストリー タリタ・クム」を主宰し、数多くのセミナーを行う中で、大切な人との死別という喪失だけではなく、罪人が失っている「神のかたち」という根本的な喪失からの回復を目指しています。そして他者のグリーフに寄り添うためには、その人に必要なことばや沈黙を選ぶための心の訓練が必要であることを指摘しています。人と向き合おうとする自分の中に、怖れや思い込み、焦りがあることに気付くことは、より深いレベルで神と出会うチャンスだとも語ります。
章末には「タリタ・クムタイム」という問いが用意されており、自分の人生にどのようなグリーフがあったのか、他者のケアのために自分が気付くべきことは何かを振り返ることができます。本書の伝えるグリーフケアは、愛し合うこと、赦し合うことを求めながらも傷つけ合ってきた家族や教会の交わりにこそ必要なのではないかと思います。傷んで死んだようになっている魂を、神はそのままにしておきません。グリーフに沈む只中でも、キリストにあって共にいやされていくという希望へと、私たちは招かれているのです。