書評books クリスマスの恵みを深く味わう童話の数々

歌人 松村由利子

 

『名作 クリスマス童話集』
小松原宏子 文
矢島あづさ 絵

四六判 176頁
定価1,870円(税込)
フォレストブックス

 

日曜学校に通う子どもたちは、クリスマスが単なる「プレゼントをもらったりケーキを食べたりする日」ではないことを知っています。けれども、メディアから発信される賑々しいイメージや街の喧噪は、少なからず子どもたちを混乱させるかもしれません。そんなときに、この童話集はクリスマスの本当の意味を伝える何よりの贈り物になるはずです。
「靴屋のマルチン」は、クリスマスの劇や紙芝居でもよく取り上げられますが、文豪トルストイによって書かれました。愛する家族を失ったマルチンの悲しみに、ヨブ記を思い出す子もいるでしょう。神さまのなさるすべてに、人間には計り知ることのできない意味があること、また私たちの真になすべき行為を示すこの物語は、世界各地で悲惨な状況が起きている今、大人にとっても大きな慰めと指針になると思います。
チャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」、オスカー・ワイルドの「幸せの王子」も有名な作品です。どちらも原作は意外に長いのですが、著者は過不足なくストーリーを刈り込み、与えられた恵みを分かち合う喜びこそクリスマスの喜びであることを伝えています。ホフマンの「くるみわり人形」は、バレエ公演では二時間を超えるような作品ですが、物語の中にもう一つの物語がある入れ子構造がきちんと描かれ、クリスマスの一夜を巡る幻想的で楽しい作品に仕上がっています。これまで数多くの創作童話を手がけ、児童書の翻訳に携わってきた著者ならではの筆力にほかなりません。
オルコットの「ケイトのクリスマス」は、初邦訳です。原題の“Kate’s Choice”(ケイトの選択)にこめられたメッセージを、クリスマスの精神と解した著者の信仰が伝わってきます。『若草物語』には、貧しい境遇で助け合う四人姉妹が描かれていますが、この物語の主人公、ケイトはどんな少女なのでしょう―。
極上の名作集によってクリスマスの恵みがいっそう深く心に刻まれますように。