書評books 旧・統一協会メンバーを捕らえる「思考の牢獄」を解き明かす
日本キリスト教団白河教会 牧師 竹迫 之
『世界平和統一家庭連合・旧統一協会は何を教えているのか ―統一原理による支配―』
パスカル・ズィヴィー 著
A5判 110頁
定価990円(税込)
いのちのことば社
われわれ人間は思考するとき必ず脳内で言語を使っており、日本人なら多くの人は、母語である日本語を使って思考するものです。この脳内で使われる言語の語彙(ボキャブラリー)が貧困になると、思考そのものも貧困になってしまうのです。
わたしの観察では、カルトと呼ばれる集団は意図的に「脳内ボキャブラリーの貧困化」を仕向けています。メンバーたちに、その集団内でしか通用しない特殊用語をたくさん詰め込んで、特殊用語を使って思考させるよう誘導します。するとその人は、次第にカルト集団のリーダーにとって都合の良い思考しかできなくなってしまうのです。この「思考の牢獄」とも言うべき状況は、仮にその人がカルト集団を物理的に離脱しても、意識して解消しようと努めないかぎりはなかなか自然に消滅することがありません。カルトを脱会した人の多くがマインドコントロールの後遺症とも言うべき苦しみを経験しますが、その大部分はこの「特殊用語によって思考するクセ」が抜けていないからであると考えています。
本書の著者であるパスカル・ズィヴィーさんは、フランス出身でありながら、長きにわたって日本における世界平和統一家庭連合=旧・統一協会をはじめとするカルトの問題に取り組んでこられた方です。フランス語を母語としておられますが、日本人のために日本語でカウンセリングを行ってきました。本書はその取り組みを踏まえて、なぜ旧・統一協会のメンバーたちが自発的に偽装勧誘・霊感商法・合同結婚式など数々の社会問題を引き起こすに至ったのか、そしてなぜその人を心配する家族と対話不能に陥ってしまうのか、旧・統一協会の主要な教義書である『原理講論』の解説を軸にしつつ、ほかにも豊富な内部資料をもとにして、非常に平易な日本語で解き明かしています。
ひとつひとつのトピックには多くの脱会者たちによる証言も付されており、旧・統一協会の作り上げた「思考の牢獄」の実態がだれにでもわかるものとなっています。