特集 子どもたちと読む『西のカカシ』という物語
子どもたちと読む『西のカカシ』という物語
インマヌエル別府キリスト教会 牧師 小川伴子
まず大人が一人で読んでほしい
ファーマーさんシリーズ最終話の『西のカカシ』。手に取ってみると厚みがあり、ページをめくってみると文字は結構細かい。小学校中級からと書かれているとおり、少し読みごたえのある絵本というのが最初の印象でした。
河井ノアさんのなじみ深いイラストに惹かれながらストーリーを読み進めていましたが、あるページをめくった後、手が止まってしまいました。「えっ、こうなるの?」それからしばらくの時間、次のページに進むことができませんでした。
私は、旧約聖書のダニエル書に出てくるように、正しい選択をした者は燃える炉の中から助け出されるという展開を勝手に予想してページをめくっていたのです。正直ショック! そして、なぜ? という疑問が心の深いところから湧いてくるのを感じつつ、終わりまで読みました。
それから私の中で、この『西のカカシ』との向かい合いが始まり、今でも続いています。子どもたちと読む前に、大人がまずこの本と向かい合って、たくさんのメッセージを受け取ってほしいと思います。
急いで、効率的に答えや成果を出さなくても良い
コロナで自粛が叫ばれた時、私はとても辛い気持ちになり、子ども時代からずっと繰り返し読んできた本を積み上げて、数日間物語の中に入り込んでいました。何度読んだかわからないのに、三回目の成人式を迎えようという年齢になったからこそわかるという部分が、どの本にもありました。
『西のカカシ』も、読者の成長とともに、たくさんの気づきや理解、納得という答えを自ら見出していく本の一つだと思います。子どもたちと読むとき、「なんで? どうして?」と問いかけられることもあるでしょう。「こんな理不尽なことが許されて良いの?」と悲しくなったり、悔しくなったりすることもあるかもしれません。「永遠ってなに?」「天国ってどこにあるの?」という言葉を聞くことになるかもしれません。
そんな時、あたかも計算ドリルの後ろの答えページを見せて「答えはこれ!」と言うようなことは控えて、一緒に気持ちに共感し、寄り添いながら語り合い、一緒に成長しながら、それぞれが答えを見出していけたら良いのではないでしょうか。
この物語は終わらない
この絵本の最後は(終わり)で締めくくられています。でも、終わらないのです。なぜならファーマーさんの畑は私たちが思っている以上に長くて、深くて、高くて、広いからです。長さは終わりのない永遠であり、広さや高さは、私たちがこの目で見ることができないぐらいはるかな所までなのです。チャリティやメロディーのいるところも全部ファーマーさんの持ちものなのです。そして、深さは、ファーマーさんの心の深さ、愛の深さに比例しているかのようです。
『西のカカシ』に登場するキャラクターたちは、とってもユニークです。そのユニークさがイラストや言葉遣いからもよく伝わってきます。そのすべてのキャラクターが、ファーマーさんの畑という懐に受け入れられ、受けとめられ、見守られています。
どのシーンでも、ファーマーさんは誰かを叱り飛ばしたり、裁いて切り捨てたりせず、いつも一人一人に対して静かな笑顔を向けているように描かれています。自ら気づき、考え、変わることを待っているかのようです。
そして、私の生きている世界もファーマーさんの畑で、私もユニークなキャラクターの一人として受け入れられていると思えてなりません。チャリティとメロディーの演奏も聞こえてくるかもしれません。
終わりのない永遠に続くストーリーを読者それぞれが成長しながら綴っていく、それが『西のカカシ』だと思います。自分の手元に置いて、何度も繰り返し開いて読み、子どもたちが大人になっても、もう一度開いて読みたくなる素晴らしい一冊に出会えました。