特集 絵本『西のカカシ』が伝えるもの
絵本ファーマーさんシリーズの最終話『西のカカシ』(フォレストブックス)が出版されました。聖書のメッセージをテーマにして作られたこの物語を、作者の思いとともに掘り下げます。
『西のカカシ』あらすじ
農夫ファーマーさんの畑を舞台に描かれるシリーズの最終話。主人公は新米カカシのチャリティ。カカシ学校の優等生だったチャリティは、「良い仕事」をする立派なカカシを目指して、畑にやってくる外敵をタイコの音で追いちらし、称賛を得ます。役にたたないカカシは燃やされるという学校の掟も、カカシたちを仕事に駆り立てます。そんなある日、落ちこぼれのカカシで皆から距離を置かれているメロディーという女の子に出会います。チャリティは、その子の奏でる美しいバイオリンの音色に心を奪われ、それ以来、自分のたたくタイコに迷いを持つようになります。農場主のファーマーさんや畑の生きものたちとの出会いを通して、自分の本当の願いに気づいたチャリティは、ある決断をするのでした……。
『西のカカシ』
柳川茂 作 河井ノア 絵
A4変型判 64頁 オールカラー
定価2,420円(税込)小学生中学年から 総ルビ
チャリティの長い長い旅
脚本家・『西のカカシ』作者 柳川 茂
数日前に絵本『西のカカシ』の見本が手元に届きました。美しい夕日をバックにタイコをたたいているチャリティが描かれた表紙を見ながら、「チャリティ、よく頑張ったぞ……」と心の中でつぶやいてしまいました。チャリティは、私の中では作品に登場する単なる主人公ではなく、共に長い長い道を歩んで来た愛すべき同伴者です。
『西のカカシ』は、妻で絵本作家の河井ノアさんと制作してきた「ファーマーさんシリーズ三部作」の最後の作品です。二作目の『はくさい夫人とあおむしちゃん』の発行からなんと、二十年もの時間をかけて祈りつつ育んできました。
プロットは「KaKaShi」というタイトルで、すでに二〇〇四年にできあがっていました。
ただ、その後、国内でのアニメ化に向けて動いたり、海外での絵本化・アニメ化のお誘いがあったり、それが突然、中止になったりと、本当に色々なことがありました。しかし、神様の導きですべてが整理され、絵本化に絞って進めることになりました。もちろん、自分たちだけではできません。絵本化を実現するために親身になって相談に乗ってくださり、実現させてくださった力強い助け手が与えられました。神様の大きな御業だと思います。
三部作の最後ということで思いが増し、かなり長い物語になり、そこで様々な問題が出てきました。何よりも難しかったのはテーマです。河井ノアさんと選んだテーマは「死と復活」でした。死ぬことが終わりではないという重いテーマを描こうとすれば、必然的に天国はどういう所か、どういう者が天国に行けるのか、そもそも、天国という言葉を使ってもいいのだろうか、ファーマーさんは何のために麦畑を作り、そこにチャリティたちカカシを立たせているのか……等々、解決すべきことが芋づる式に出てきます。一つの疑問に答えを出すと、そこからまた新たな疑問が次々と派生しました。改訂に次ぐ改訂の中で、私も画家の河井ノアさんも主人公のチャリティも共に呻き、共に産みの苦しみを味わいました。でも、そんな苦しみの中でチャリティはだんだんと聖なるカカシとなり、最後には小さな者のために美しいタイコを打ち鳴らしてくれました。
結局、私たちは生きている間に天国を見ることはできません。神様を見ることもできません。ただ、私たちには聖書によってみことばが与えられています。「はっきり言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである。」(新共同訳/マタイによる福音書25章40節)
このみことばによって、どういう者を神様は良しとされ、天国に招かれるのかがはっきりと示されています。みことばを見失わないように祈り、文章を、絵を、丁寧に書き続け描き続け……、完成した絵本、それが『西のカカシ』です。チャリティと共に歩いた長い長い旅でしたが、この絵本『西のカカシ』にとってはこれだけの時間が必要だったのかもしれません。