書評books どんな困難の中でも 伴走者となってくれる存在

救世軍神田小隊 士官(牧師) 髙畠恵子

 

『死を意識して生きる希望』
樋野興夫・小澤竹俊 対談

B6変型判・112頁
定価1,320円(税込)
フォレストブックス

本書は終末期の在宅医療と心のケアに取り組む小澤医師と、がん患者の心の拠り所となるカフェで対話を続けている樋野医師による対談を書籍化したものです。死をテーマにしたものは重苦しく、読み進めるには時間がかかるものですが、本書は読みやすいと感じました。
医療技術の進歩は著しく、不治の病と言われた病気も治る時代になったことで、高齢多死社会を迎えています。その中で、医療と患者との間には隙間があることを実感させられます。そこで小澤医師はエンドオブライフ・ケア協会を、樋野医師はがん哲学カフェを立ち上げました。そこにはキリスト者でもあるお二人が、誰もが必ず迎える「死」の伴走者として、キリストの眼差しで目の前の人を見て、内なる気づきを促す心のケアを大切にし、そのケアをする人を育成することにまで力を注いでいることを読むことができます。そのケアは、プロでなくても子どもでもできることを本書は伝えます。
三章から構成されており、「自らが出向いて行く・学校でのいのち、こころの教育に力を注いでいる」(第一章)、「傾聴と対話・日本人ならではの死生観、霊的感性」(第二章)、「困難な現場(死と向き合う場面)で働かれる神の不思議・支え・ヨブが気になる」(第三章)と各章にお二人の共通点が読み取れます。
そしてお二人ともにご自分の弱さや、医師としての限界を知り、自分の宗教観が相手には通じないことも身にしみています。だからこそ「弱い時に強い」(100頁)、「大事なことは暗くなる(病気や死に直面する)ことで気づく」(92頁)、「すべての人の中に神はいる」(94頁)ことを伝えておられます。
病気だけが困難ではなく、死をもたらすわけでもありません。人間関係、経済危機、仕事や学校の悩みなど、生きている限りは、困難や答えが出ない問題に出合います。社会的死に直面することもあります。どんな困難の中でも「一人ぼっちにさせない」「仲間がいる」「あなたがいて私がいる」。そんなことを本書は語りかけてくれます。