連載 まだまだ花咲きまっせ おせいさん、介護街道爆進中 第6回 看護師分裂

俣木聖子
一九四四年生まれ。大阪府堺市在住。二〇〇〇年に夫の泰三氏が介護支援事業会社「シャローム」を創業したことを機に、その運営に携わる。現在は同社副会長。

 

新しい施設のオープンの時は、大なり小なり問題が起こった。
シャロームにとって初めてのナーシングホームの開設の時のこと。面接に仲間三人のナースが来た。そのうちの一人は、白衣の天使とはほど遠い、番長風の姉御肌だ。後の二人は彼女に引っ張ってこられたのかもしれないなあ。
おせいさんは、面接をしながら、不安な気分だ。しかし、人を見かけで判断してはならんと、言い聞かせた。
「介護施設で働くのに大事なことは何でしょうか?」
「ナースと介護職員とがコンビネーションよく、協力体制を作ることです」
おぬし、番長風だのにいいことを言うではないか。おせいさんは、内心よしよしだ。ただ、番長風が三人分まとめて喋る。おせいさんは、そこが気になった。
シャロームのナースの責任者が専門的なことを質問した。やはり番長風がはきはきと答えた。
品に欠ける彼女を採用するのは、喉に小骨が引っかかっている気分だ。しかし、ナースは早く採用したかった。番長風を採用しなかったら、あとの二人も辞退しそうだ。三人まとめて採用することにした。
喉に引っかかった小骨は、大骨となり、シャロームの屋台骨をゆるがした。入ってくる新人ナース、ヘルパーが次々と退職していく。
「こんなに続かないスタッフだと私たち大変です。現場を守れなくなりますよ」
番長ナース仲間がぶつぶつと言う。
おせいさんは、「あなたがたが怒って指導するから、優しいスタッフがもたんのよ」とぶつけてやりたかった。
しかし、シャローム全体のナース長が、
「聖子さん、彼女たちがシャロームのナースらしくなるのは無理ですわ。しかし、いい戦力になっています。そのいいところを褒めて、言葉や態度の横柄なところを指導していきます。少し時間かかりそうですが」と言ってくれた。ナース長の人間力に頼るばかりだ。
おせいさんが、そこの夜勤に入った夜。番長ナースたちの二人が夜勤に入っていた。突然、怒声が聞こえてきた。
「ヘルパーがこんなに頼りないから、看護師が大変なんだよ! しっかり勉強しなさいよ! あなたたちのミスで私の看護師免許が剥奪されたら、どうしてくれるのよ!」
シャロームの現場であってはならない言葉だ。そんな言葉を言われたスタッフは、どんなに心痛めたことだろうか。
「何か問題が起こったんですか?」
おせいさんは、「文句あるのか!」と怒鳴りたい気持ちを抑えて、ひきつりながら、鬼の微笑みで聞いた。
「初歩の初歩もわかっていなくて、ひやひやしたので、教えていたんです」
「教えるんだったら、脅しをかけんといてくださいね。適格に指導していただいたらわかりますから」
おせいさんは必死に、怒られているスタッフをかばう態度を表した。
その時、番長風ナーストリオとおせいさんとの闘いのゴングが鳴った。
会社の上層部も現状はわかっていた。三人が結束しているのがよくないと判断した。三人の部署異動をして、それぞれのいいところを生かしてもらおうとした。しかし、三人は異動には応じないと、強固な姿勢だ。人間力の強いナース長のマネージメントも功を奏さなかった。
そこの現場は三人が牛耳っていて、スタッフの顔色が暗かった。見かねたおせいさんは神様に祈った。
「神様、あの三人を仲間割れさせてください」
クリスチャンでこんな祈りをするのは、破天荒なおせいさんくらいだろう。しかし、その祈りは命中した。
三人に異動を通告する日のことだ。ナース長からおせいさんに電話がかかってきた。
「聖子さん、ビックリです。三人、昨日飲み会をしたみたいです。そこで大ゲンカしたらしい。三人が退職を言ってきたんです。誰かが何かをしたんですかね」
ナース長は、そんなことが現実にあるのかと驚いていた。結束が崩れるなんて夢のようだ。
ハレルヤ。こんな聖書的ではない祈りにも、神様は働いてくださったのか。
求めよ、さらば与えられん。なんでも祈るべし。
それからずいぶんの年月が経った。今は、ナース、介護ヘルパー、事務職員、和気藹々とひきつらない笑顔満開の職場に変わった。