書評books 時の人・津田梅子を知る旅へ
東京女子大学キリスト教センター宗教主事 城倉由布子
『梅子と旅する。
日本の女子教育のパイオニア』
フォレストブックス編集室 編著
四六変型判・96頁 定価1,650円(税込)
フォレストブックス
「新五千円札の顔」。本の帯に書かれているとおり、津田梅子は今年七月三日に二十年ぶりに刷新される五千円札の肖像に採用されました。明治以降の日本のお札で女性の肖像画が描かれているのは、梅子を含め四人だそうです。お札の発行元、日本銀行のサイトには「女子教育家、女子英学塾(現・津田塾大学)の創設者」と紹介されています。
この本を開いて梅子と旅をしてみると、その紹介以上の梅子に出会うことができます。
これまで私にとっての梅子は、過去の遠い存在でした。中学生の時、日本史の教科書に掲載されていた梅子の留学時の写真に、それはそれは幼くて「どうしてこんな幼児が時の政府から選ばれて留学生になったのだろう……」と思ったものです。けれども今回この本に出合って、「偉業を成した人」というだけではない「神と共に歩んだ人」としての梅子の人生をたどることができました。
あの幼いサムエルが神の声を聞いて召しに応えたように、梅子は八歳にして自分の使命に目覚め、日本政府から禁じられていたにもかかわらず洗礼を受ける決心をし、禁教令が解かれたその年に受洗をしています。その使命とは「新しい日本の未来のため役立つ人になる」ということでした。けれども、十一年後の帰国時に待ち構えていた現実は留学前と何ら変わらない「男性中心社会」。一緒に留学をした男性たちと違い、要職が用意されることもありませんでした。誰からも期待されないというこの時に味わった苦悩の日々はしかし、彼女を日本の女子教育を切り拓くという明確な使命へと導いていくことになったのです。
さて、現在の日本社会はどうでしょう。女性が高等教育を受けることが普通になりました。それでもジェンダーギャップ指数(男女間の格差を示す指標)が示すとおり、世界一四六か国中の一二五位。意思決定機関にまだまだ女性が少ない現実が浮き彫りにされています。
さあ、私たちも梅子に続こう。神の召しに応えて生きようとする者たちの旅を応援してくれるガイドブックです。