書評books 聖書から戦争と平和を考える上での必読書
関東学院大学准教授・大学宗教主事 豊川 慎
『聖書と戦争
旧約聖書における戦争の問題』
ピーター・C・クレイギ 著
村田充八 訳
B6判・256頁 定価2,200円(税込)
いのちのことば社
旧約聖書学者ピーター・クレイギ(一九三八―一九八五年)の『聖書と戦争』は、すぐ書房から一九八九年に翻訳出版され、その後絶版となっていました。評者は関西学院大学の学部生の時に訳者である村田充八先生の「社会倫理」の授業(本務校は阪南大学でしたが、母校の関西学院でも非常勤で教えておられました)で本書を紹介され、それ以降、戦争と平和の問題を考えるに際し、本書を繰り返し読んできました。それゆえに、このたび訳を新たに本書が復刊されたことを大変嬉しく思っています。
本書の原書が出版されたのは一九七八年でした。四十六年前の著作ではありますが、今こそ再読されるべき本であると確信しています。世界各地で戦争や紛争が頻発している中、戦争についてどう考えるべきなのか、聖書は何を語っているのかが問われ続けているからです。とりわけ、イスラエルとハマスとの戦闘が長期化し、多くの命が奪われ続けている状況にあって、旧約聖書を典拠に戦争が正当化され、肯定される言説も時に聞かれます。このような現下の状況にあって、クレイギが本書でさまざまな角度から論じている旧約聖書における戦争の問題はキリスト者が今こそ真摯に考えるべき喫緊の課題ではないでしょうか。
クレイギが本書で論じるように、戦争の問題をめぐってキリスト教には大別すると二つの立場があります。平和主義と正当な戦争(Just war, 本書では「正義の戦争」と訳されています)の立場です。クレイギ自身、絶対平和主義の立場には立っていませんが、正戦論を安易に肯定することもせず、読者一人一人に熟考を促しています。
本書の内容を紹介する紙数はありませんが、クレイギがキリスト教教育の重要性を強調していることは特筆に値します。紛争や暴力をどう克服するのか、平和を構築するためのキリスト教教育とは何か、本書から多くの示唆が得られるはずです。命や人権が侵害され続けている危機の時代だからこそ、聖書に基づく平和教育が必要とされています。平和構築のために祈り熟考し行動しようとするキリスト者にとって、本書は必読の書であり続けるでしょう。