特集 聖書を「旅する」読み方のススメ

音楽伝道者 久米小百合

 

今も世界のベストセラーであるだけでなく、キリスト教国でないこの日本でも巷の人気作家の作品をはるかに引き離し売れ続けているのが『聖書』だそうです。その不思議な魅力はどこから来ているのでしょう。クリスチャンの方々には、なにより信仰の書であることに間違いないのですが、かといって厳しい戒律づくめの気難しい経典というには、あまりにもバラエティ豊かな読み物だと言えます。
月に一度、バイブルについてのお話をさせていただいているカルチャーセンターでも、いろいろなアプローチで聖書の世界をご紹介しています。たとえば映画作品 「十戒」や「ベン・ハー」などを通して、また美術館を巡るように名画で聖書のシーンを学ぶということにもトライしました。百読は一見にしかず!? とでも言いましょうか。映画や名画から聖書へと導かれる未信者の方も少なくありません。
でも、もう一つのとっておきの読み方があるのです! 実はこちらのほうが映画や美術作品以上に興味を持たれる方が多いのです。それは「旅」をするように聖書の世界を巡る、というものです。これは私が神学校時代の教授に習った、聖書の読み方・味わい方です。師いわく、「旧約のページを繰っていけば立ち現れる、ラクダの隊商、香料の香り、ダビデの竪琴の音……。目をこらし、耳を澄ませてごらん。新約ではローマ帝国時代のユダヤ、ガリラヤの街々がキリストの肩越しに見えるでしょう。紙の聖書を読むだけでなく、その中を歩きなさい、旅をしなさい……」。
この『地図で学ぶ聖書の歴史』は、そんな旅する聖書読者には待ってました! というべきガイドブックなのです。ノアの箱舟の記憶、アブラハムたちのカナンへの旅、モーセ率いる出エジプトの旅、ソロモンの栄華、イスラエル王国の分裂と預言者たちのことば……。聖書をめくりながらどんな時代だろう、どんな言語で文字は残っているのかな、いったいどんなルートで旧約の旅人たちは歩き続けたのだろう、今はどんな街なのかな……そんな疑問に即座に答えてくれる頼もしいツアーガイドです。
嬉しいことに、旧約と新約の中間時代にも詳しく触れていて、私たちが世界史で習ったあの「アレキサンダー大王の世界遠征」も、後の新約の舞台を準備する役割であったことがわかります。シーザーとクレオパトラ、アントニウスとオクタビアヌス、名前だけは知っているけど聖書と関係ある? 大いにあるんです! 教科書の年表だけでは見えてこない、学校では教えてもらえなかったヘレニズムとヘブライズムの大きなうねりを、豊富なカラー写真の資料と共に見せてくれる壮大な一冊。
クリスチャンの方々には生き生きとした新鮮なバイブルスタディのお供に、求道中の方には聖書が確かな地理に基づく歴史的、考古学的な文献であることを知る手掛かりとなるでしょう。そして、いつの日かイスラエルやローマへの旅をお考えの方は、乾いたシナイの荒野、黄金のエルサレムにゲツセマネのオリーブの樹々、そしてローマ市内のいたる所で見かける古跡をご覧になるとき、この本に登場する旧新の旅人の遥かな魂の物語を思い出されることでしょう。