連載 リラ結成30年 いつまでも賛美をこの口に 第9回 破れ口に立つ 塚田献

LYRE(リラ)
1993年に東京基督教大学の神学生たちによって結成された賛美グループ。卒業後、コンサート活動をしながら、6人のメンバーは各々のところへ遣わされ、主のみわざに励んでいる。

 

二〇二〇年は、母校、東京基督教大学(TCU)の創立三十周年記念の年だった。そのテーマソング作成の依頼が来て、LYREとしては初めて宮脇(作曲)と塚田(作詞)の合作に挑戦することとなった。三十周年のテーマ「破れ口に立つ」は、あまり聞きなれないかもしれないが、私たちが在学していた時から学生の身に刷り込まれてきたTCUスピリットそのものであった。それは、キリスト者とは御子イエス・キリストの十字架と復活のみわざによって罪赦され救われ、この世界中にある「破れ口」に遣わされている者だということである。「あなたは代々にわたる礎を築き直し、『破れを繕う者、通りを住めるように回復する者』と呼ばれる」(イザヤ58・12)と聖書にあるとおりで、この世界を救う神のみわざに参与し、痛みや悲しみ、嘆きや苦しみのあるところに、真の救いと希望を示すように私たちは遣わされていることを歌詞にした。
考えてみると、LYREの賛美はヒーリングゴスペルと称され、痛みや苦しみの中にある人の支えや励ましになればと願い歌ってきたように思う。しかし同時に、自分たちが「破れ口」に立ち人々の痛みや悲しみを担うことなど到底できない者だ、という思いと葛藤してきたのも事実である。自分自身も弱く多くの問題を抱え、ただ神に叫ぶしかないような者であるからだ。それでも私たちが破れ口で叫び求めると、確かに主は痛み嘆く者とともにいてくださることがわかる。「あなたが叫び求めると、『わたしはここにいる』と主は言う」(同9節)との聖書の約束が何よりの希望であった。
曲が完成し、ともに母校で賛美する時を楽しみにしていたが、新型ウイルスの蔓延によって集まることも賛美をすることも叶わないという、考えもしなかった状況になった。そこでピアノとヴォーカルの音源を、メンバーがそれぞれの場所で録音し動画にして発表した。この動画はそれぞれ違う場所に遣わされ、そこにある破れ口でともに主を叫び求めてきた歩みを象徴するようなものに思えた。
歌詞にある「夜明けの岸辺に立つ主」とは復活のイエスのこと。ご自身を裏切ったペテロに「わたしを愛しているか」と三度尋ね、そして彼を赦し遣わしてゆく。私がTCUに入学した時のメッセージもこの箇所からであった。主は同じように、私を赦し遣わす方なのだと心に刻んだのを覚えている。コロナ禍が過ぎ、LYRE結成三十周年を迎えた二〇二三年十月、母校で「破れ口に立つ」を歌い、賛美をささげることができた。今母校で学び主に遣わされていく人たちを前に、多くの仲間が全世界に散らされ、破れ口に立っていることを思いながら。

破れ口に立つ
詞  塚田 献 曲 若林栄子

主の愛の御手で造った
輝き映すこの世界
今でも聞こえる 痛み嘆く人の声
罪なき神の子 主イエスは
われらの涙を担った
罪ゆえ壊れたこの世界を救うため

夜明けの岸辺に立つ主が
われらを赦して遣わす 憂いは賛美に
その打ち傷のゆえに主は
われらに平和をもたらす
だから痛むこの世界の破れ口に立つ

われらの叫びの祈りに
心を震わせ答える
苦難の時にはわたしを呼び求めよと
地に撒かれた主のいのちは
たしかな望みを掲げる
イエスこそわれらの破れ口に立つお方

夜明けの岸辺に立つ主が
われらを赦して遣わす 御跡に従う
その打ち傷のゆえに主は
われらにいのちをもたらす
だから痛むこの世界の破れ口に立つ

©Sasagu Tsukada,Eiko Wakabayashi