連載 リラ結成30年 いつまでも賛美をこの口に 第11回 御心のままに 小山晶子

LYRE(リラ)
1993年に東京基督教大学の神学生たちによって結成された賛美グループ。卒業後、コンサート活動をしながら、6人のメンバーは各々のところへ遣わされ、主のみわざに励んでいる。

 

私は父が大嫌いだった。
幼い頃から、ことあるごとに殴られたからだ。それは時に数時間にもおよび、顔にあざをつくって学校に行ったことも何度もある。今の時代なら通報されるレベルだと思う。しかも、アルコール依存症で怒りスイッチがいつ入るかわからないので、びくびくしながら、いつも父の顔色をうかがいながら過ごしていた。
幸い、幼少期から母の友人を通して母と姉と三人で教会に通っていたため、イエス様に出会い神様に愛されていることを知ることができた。おかげで私の心は守られてきたと思うが、そうでなければ父を殺していたかもしれない。
献身し、東京基督教大学に入ったことで父との物理的な距離もできた二年生のある日、父が危篤であるとの連絡が入った。長年のアルコール摂取で父は末期の肝臓がんとなり、肝性脳症も起こしていた。私は思った以上に動揺した。
このままの親子関係で父が死んだら?
憎しみよりも、この関係のままで終わりたくないという気持ちが強かった自分に驚いた。
でも、頭の中がぐちゃぐちゃでどう祈ればよいか言葉が出てこなかった。
その時、イエス様がゲツセマネの園で祈っておられる姿が鮮やかに心に迫ってきたのだ。十字架を前に血の汗を流しながら自分の思いを訴え、でも御心のとおりにしてください、と父なる神に祈るイエス様の姿。「主よ、私の願いは父が助かり、癒やされ、家族の関係が回復することです。でも命はあなたの御手にあることを知っています。あなたの御心のままに行ってください。でも、できることなら父を生かしてください……」
その時の思いをそのまま書いたのが「御心のままに」だ。メロディは(宮脇)栄子がつけてくれた。

そして昨年6月。
父は洗礼を受けた。
あの日の祈りから三十年が経ち、父の肝臓にあった無数のがんはすべて消えてしまった。
実は、父の父親、つまり私の祖父はクリスチャンだった。
今では「教会に行くことが何よりの楽しみ」と話す父は、父親との天国での再会を心待ちにする優しい顔の穏やかなじいじとなり、大きな声で賛美歌を歌う。息子たちにじいじの過去の悪行の数々を話しても、今では私が話を作っているのでは、と疑われる始末。みんなじいじが大好きだ。これが奇跡でないなら、いったい何が奇跡なのだろう。

主の栄光だけが光り輝きますように。ハレルヤ!

御心のままに
詞 小山晶子 曲 若林栄子

苦しみも悲しみも
別れへの恐れも
主は知って それでもと
最善をなし続ける

取らないでと祈ったり
助けてと祈ったり
でも 御心のままにと
心から祈っていたい

生きることも死ぬことも
その中にあるから

©Akiko Koyama, Eiko Wakabayashi