特集 クリスマスに届ける恵み 台湾に雪は降らないけれど

信仰の有無にかかわらず多くの人が祝うクリスマスは、伝道の良い機会にも。プレゼントにおすすめの書籍の紹介とともに、クリスマスに福音を届ける喜びを確認します。

 

東京基督教大学 准教授 齋藤五十三

 

私は妻・千恵子、四人の子どもたちとともに二〇〇四年四月に台湾に渡り、約十四年間、宣教師として現地で働きました。台湾での日々は、神さまが私たちに下さった大切な人生の宝です。そんな日々を振り返りながら、クリスマスにまつわる三つの思い出を綴ってみます。
最初は「歌うクリスマス」です。クリスマスのたびに歌った懐かしい台湾の賛美があります。歌い始めはこんな歌詞です。

 

台北的聖誕節 天空不下雪 但是我感覚到一種愛的力量 従天那端開始蔓延 我知道那是祢
拙訳「台北のクリスマスの空に雪は降らないけれど、空の端から愛の力が広がっていくのを感じます。そこにあなたがおられるのです」
作詞・作曲 趙治德「台北的聖誕節」

 

たとえクリスマスの季節でも、ひとたび日が照ればすぐに暑くなる台湾です。平地に雪が降ることはありません。そのため人々には「ホワイトクリスマス」への憧れがあって、こんな賛美が生まれたのでしょう。
その一方、台湾のクリスチャンたちがクリスマスに歌う賛美には、この歌も含めて「雪降る静けさ」とは正反対の明るく元気なものが多いのです。これもまた台湾らしさです。
東アジアのキリスト教界において台湾の教会は「歌う教会」として知られています。台湾のクリスチャンたちは賛美をこよなく愛します。しかも明るく賑やかに歌うのです。そんな明るさが人を招く思いとなって溢れ、彼らはクリスマスの季節、このようにして人を教会に招いていたのだろうと思います。「いっしょに教会へ行って歌おうよ!(我們一起去教會唱詩歌吧!)」と。

 

二つ目は、「楽しいクリスマス」です。宣教師一年目の二〇〇四年、最初のクリスマスのことです。クリスマス祝会の中で、私は一つのカルチャーショックに遭遇しました。(すべての教会が同じかどうかはわかりませんが)台湾教会の「くじ引き文化」を経験したのです。
台湾教会では「くじ引き」が祝会の盛り上がりにひと役買っていて、当たった人にはその場でプレゼントを渡します。参加者は一喜一憂しながら当選発表を見守り、祝会はいつも熱気に包まれたものでした。あの年の一等賞は台湾の有名ブランド「ジャイアント」の自転車でした。「くじ引き」は楽しく開放的な台湾の文化の一つの反映なのでしょう。
台湾教会のクリスマスはとにかく楽しいのです。宣教師十四年の経験の中で、「静かでおごそかなクリスマス」は皆無だったと思います。最初はずいぶん戸惑いましたが、今となっては懐かしい思い出です。満面の笑みを浮かべた台湾のクリスチャンたちが、友人を招く声が今も聞こえてくるかのようです。「いっしょに教会へ行こう! 教会は楽しいよ!(我們一起去教會吧! 教會很好玩!)」と。「楽しいクリスマス」もなかなかいいものでした。

 

最後は挫折の経験です。神の御子が人となったクリスマスの出来事は「キリストの謙卑」(「ご自分を空しくして、しもべの姿をとり」ピリピ2・6~8)として覚えられていますが、私には宣教師をやめかけるほどに「空しい自分」を感じた日々がありました。
二年目の二〇〇五年秋頃から胃に強い不快感を覚えるようになりました。薬を服用しても改善せず、精神的にも追い詰められて不眠になり、最後は心に不安や抑圧感を覚えるようになりました。私は後に「適応障害」と診断されますが、あの年のクリスマスを私は実に惨めな思いで迎えたのです。ツリーの前で撮った写真が宣教師のニュースレターに載ったのですが、友人の牧師がやつれた私を見て「驚いた」との知らせを下さるほどでした。私は疲れ切っていたのです。
でも、不思議な夜がありました。不安と不眠が続く中、キャンドルサービスの夜だけは静かな心の平安が戻ってきたのです。それはまるで御子イエスが飼葉桶から疲れた私を見守っているかのように感じた夜でした。
そんな平安も束の間、つらい日々はさらに半年以上続きます。クリスマス行事を終えた私は家族とともに帰国療養に入るのですが、療養の日々はまるで地を這いながら暗いトンネルを通っているかのようでした。でも、長いトンネルにも出口がありました。台湾に戻った後、宣教師三年目の二〇〇六年七月くらいから徐々に気力を取り戻し、その年の教会暦では降誕節第二主日の十二月三十一日の礼拝で、私は初めて中国語で説教をしたのです。
今振り返ってみても、あれは奇跡だったと信じています。駆け出し宣教師の語学力は心もとなく、最初は体が震えたのですが、語り出すと自分の力とは思えぬほどに中国語で御言葉が溢れて、さながらペンテコステ(使徒2・4)の追体験にも思えました。
二年目から三年目にかけて、私は地を這うような日々を過ごしましたが、「雪は降らないけれど……そこにあなたがおられる」インマヌエルの静かな喜びに包まれて、私はこの南の島でキリストを伝えていこうとの思いを新たにしたのでした。
「聖誕快樂!(メリークリスマス!)」