書評books 古代の視点で創造を解釈する試み
福音聖書神学校教務 南野浩則
『アダムとエバの再発見 古代の世界観で聖書を読むⅡ』
ジョン・H・ウォルトン 著
原雅幸 訳
関野祐二・中村佐知 監修
A5判・288頁
定価2,860円(税込)
いのちのことば社
本書は創世記二章と三章の記述の解釈を主題としています。すでに刊行されているウォルトン著『創世記1章の再発見―古代の世界観で聖書を読む』(編/発売は本書と同じ)と併せて読まれることをお勧めしますが、本書だけでも十分に著者の創造に対する理解を学ぶことができます。
本書を読み進める上での重要な視点は、古代イスラエルの世界観です。聖書は「神のことば」として告白されていますが、実際に書かれたのは古代という歴史においてです。聖書の表現は当時の世界観から自由ではありません。本書で挙げられているその理由の一つは、古代に生きた人々が当時の世界観によって聖書の内容を十分に理解するためです。
本書の主張によれば、創世記が語る創造には物質の起源に対する関心はなく、むしろ聖書テクストはこの宇宙における秩序の起源を説明しようと試みています。アダムとエバの創造はこの神学的・文学的な文脈から理解すべきです。アダムとエバが全人類の先祖であることを創世記は語りたいわけではなく、すべての人間の性質(死すべき存在としての意義を含む)を代表する「原型archetype」であることを示そうとしています。また、アダムとエバは「神のように」生きたいと望み、自己中心を選ぶことで、この世界に無秩序がもたらされました。以上のような創造・堕罪理解は伝統的な解釈とは大きく違うと言えるでしょう。
一方、著者は創造に対して保守的な姿勢も示しています。創世記二章の記述は、一章の創造の後に実際に起きた出来事として理解しています。アダムとエバが歴史的な存在であることを認めています。「無からの創造」について、創世記には何も記していないとしつつも、新約聖書(ヨハネ福音書、コロサイ書)の記述からこの教理を認めています。
本書の内容は、多数の読者にとれば新しいだけでなく、時に混乱をもたらすかもしれません。ですから、著者の意見を正確に知るために、丁寧に読むことが求められます。多角的な聖書の解釈は多くの実をもたらすことを意識して、本書を読んでください。