書評books 祈りの生活を豊かにするために

東京神学大学 教授 小泉 健

 


『三位一体の神と語らう 祈りの作法』
朝岡勝 著
B6判・216頁
定価1,760円(税込)
いのちのことば社

 

祈ることはたやすいでしょうか。目を閉じ、手を合わせ、心にあることを語ればよいのでしょうか。そのとおりです。しかし、目を閉じ、手を合わせて、こう語った人もいます。
なにごとのおわしますかは知らねども
かたじけなさに涙こぼるる
西行法師が伊勢神宮を参拝した時に詠んだ歌です。どなたがいらっしゃるのか知らないけれども、手を合わせて祈る。ありがたい気持ちになって涙が出る。日本人にはそのような宗教性があります。
わたしたちの祈りは違います。どなたなのか知らないままに手を合わせているのではない。だからこそ、わたしたちがどなたに祈っているのかがとても重要です。
しかし、です。祈りについての本はたくさんありますが、わたしたちがどなたに祈るのかについて、ていねいに教える本は見当たりません。欧米のキリスト者にはあまりにも当たり前で、そこから書かなければならないとは、思いもしないのでしょう。しかし、日本に生きるわたしたちには、そここそが肝心なことです。
本書は「第一部 祈りの教え」として、祈りと三位一体の神とのかかわりをていねいに解き明かしていきます。他の本では読むことのできない、祈りの土台です。
「第二部 祈りの諸相」はその展開です。ひとりの祈り、だれかと共なる祈り、その祈りを神が聞いてくださること、さらには聞き届けてくださること、そして、祈りを通してわたしたちに何が与えられるか。第二部を読むと、祈りをめぐる、著者・朝岡先生の格闘が伝わってきます。そして、祈りによって恐ろしいほど深い恵みが与えられるのだということに目が開かれます。
「第三部 祈りの作法」は、祈ることへの励ましであり、助けです。朝岡先生が、具体的な言葉で、祈ろう、祈ろうと呼びかけ続けてくださいます。また第四部には、まるで朝岡先生が目の前で一緒に祈ってくださるかのように祈りの言葉が収められています。わたしたちが祈ることを助け、豊かにする、本当の祈りの本です。