書評books 時代を超えた名作を「今」へ

きりん文庫かすが(福岡県)主宰 徳永明子

 


『名作クリスマス童話集 かけがえのない贈りもの~Gift~』
小松原宏子 作 矢島あづさ 絵
四六判・194頁
定価1,980円(税込)
フォレストブックス

 

時代を超えて読み継がれてきたクリスマス童話の名作を、いま、この時代に生きている子どもや大人たちにも届けたいと、明確な意図をもって再話された「名作クリスマス童話集」シリーズの新作。『かけがえのない贈りもの〜Gift〜』という題名が、その内容を示しています。
目次には「星の銀貨」(グリム兄弟)、「フランダースの犬」(ウィーダ)、「雪の女王」(アンデルセン)、「賢者の贈りもの」(O・ヘンリー)など、旧知の物語がずらりと並び、これらの童話たちを、時を忘れて読みふけった、若い日の記憶がよみがえってきます。
いずれも名作中の名作とはいえ、百年以上前に世に出たこれらの古典的な童話が、IT文明のただ中に生きる現代の子どもたちの心に届くのだろうかと、少々心許ない思いを抱きつつ、最初から読み始めました。
再話の文体が、すべて「〜した」「〜だった」と、簡潔な言い切りの形に統一されていることに、やや違和感を覚えつつも、文庫のおばあさんの常として、小さな声を出しながら読んでいくうちに、物語の中の風景が目に浮かび、それと同時に、読み手である私自身も物語の世界に引き込まれていくのを感じました。
児童文学の書き手であり、家庭文庫の主宰者でもある再話者によって、「今」を生きている子どもたち向けにリライトされた会話や文章は、登場人物たちの心の中までもしっかりと、読み手に伝えてくれたのです。
最後まで読み終えたとき、私の心の中は、長い旅を終えて我が家まで帰りついた時のような、穏やかな平安に満ちていました。誰かに話しかけたい……そんな気分でした。
この本を読む時は、一人で黙読するのではなく、身近な人といっしょに、声を出して読みあっていただきたいと思います。なぜなら、「物語(お話)」とは、昔から「声」を通して「喜び」を「分かちあう」……そういうものだったからです。